中国の習近平国家主席が突然打ち出した共同富裕という理念が中国大手企業に大きな警戒感を与えています。

この共同富裕という概念は公平な社会の実現に向け、経済格差の是正に取り組む姿勢を明確にしたものです。

中国は共産主義社会なので特権階級の存在を許さないという姿勢ですが、ここ20年以上どの資本主義先進国よりも資本主義的な経済成長を誇ってきた中国はどこよりも資本主義的雰囲気の漂う共産主義国というイメージが強かっただけに、いきなりこうした理念の遂行に舵を切り始めるというのは意外です。

世界で最も経済成長をけん引してきた中国に大きな変化が訪れることが、金融市場にも多大な影響を与えかねないところまで来ていることを市場参加者が危惧し始めています。

中国が経済的に猛烈な成長をとげ、ITやネット、電気自動車、半導体といった主力産業ですべてイニシアチブをとることをトランプ政権では恐れ、規制をかけて中国を包囲する戦略に出たことは記憶に新しいところですが、習近平がいきなり共同富裕という理念を持ち出してきたことはかなり意外な状況となりました。

習近平体制維持のため経済成長を犠牲にすることに戦略転換

習近平は直近の共産党会議の席上で共同富裕は社会主義の本質的な要求であるとし、高過ぎる所得の調整とともに高所得層や企業に対して社会への還元を促す方針を打ち出しています。

米国では上位1%の富裕層のもつ資産が90%のもつ総資産よりも大きいといった所得分配ですが、それを直すよりも先に中国が所得分配について大幅な修正をかけて来たことは想定外で、経済成長一本で国を運営していくのではないという大きな戦略変更が垣間見られます。

ただこうした戦略変更は、表面的には社会的な所得の公平感を作り上げているように見えますが、実は習近平による中国共産党の体制を盤石なものにして追い落としを図られないようにする発想があり、体制維持のためならこれまでのような経済成長は追わないという姿勢変化を明確にしていることに驚かされます。

中国の大手企業はもはや米国の企業のようには振舞えない可能性も

この状況に最も困惑し警戒感を高めているのは中国の大手企業で、すでにテンセントなどは一定の金額を貧困層支援にあてる計画を公表し、民間の上場企業でも利益を上げて株主還元をしていればいい、という状況ではなくなったことに強い危機感を覚えているようです。

これまではNY市場への中国企業の上場は当たり前でしたが、ここからは様々な規制の発行により中国大手企業は経営のしづらい時代に突入しかけています。

2000年代初頭まで中国といえば世界の工場というイメージが強かったと思われますが、今は米国の次にGDPが大きくなって世界的な個人消費の拠点にもなり、さらに習近平の政策変更で社会主義的状況が強まりました。

成長が大きく削がれるようになれば世界経済にも影響を与えるだけに、ここからの中国の動きには大きな注意が必要になるでしょう。

こうした政策変更は長期に渡って経済停滞を招く可能性があり、一過性の事象と捉えるのは非常に危険です。

特に株式市場は米国を中心に中国の影響を大きく受けることになるので、日本への輸出ビジネスにもかなり大きな影響が出てしまうことが予想されています。

足もとでは日米ともに中国の問題に対する株式市場のリスク感応度は極めて低いですが、この先突然大きな問題が出てくる可能性は極めて高いです。

FRBの金融緩和の後退がいつ始まるかなども大きな問題になる可能性もあり、金融市場にいきなり大きな影響が出る可能性に最大限の注意を払った方がいいでしょう。