米国のバイデン大統領は11月の中間選挙も近づいてきていることから、なんとかインフレを沈静化させるため米国民がもっとも怒りを露わにしているガソリン価格を抑制するべくサウジアラビアに意を決して訪問、石油増産をサウジに要請することとなりました。
表面上は両国の戦略的同盟関係の再活性化が目的とされましたが、バイデンの油を求める訪問であることは間違いない状態となりました。
サウジアラビアサイドは大人の対応で表面上はにこやかに会談に応じたようですが、2021年2月就任当初には人権や民主主義などの基本的価値を重視することも明確にしてきたことから、カショギ氏殺害事件に関与したとされるサウジのムハンマド皇太子を糾弾してきたため、ロシアのウクライナ侵攻を受けた原油高から一転してサウジを訪問して原油増産を求めてもいい返事が得られることはなく、ムハンマド王子との会談を経ても、サウジ側から増産の確約は得られずに訪問を終了することとなりました。
G20で対ロ制裁の声明を出せずに終ったイエレン財務長官も大失敗
一方インドネシアで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、世界的な食料不安と債務増への対応を確約することになりましたが、米国が狙っていた対ロ制裁を明確にいれた声明のとりまとめは実現できず、ウクライナ侵攻で各国が分裂し米国がそれを主導的に取りまとめられる存在ではなくなったことを印象付けることとなりました。
当初米国は、この会議に先立つ6月27日のG7サミットでウクライナに侵攻したロシアの戦費調達を遮断するためエネルギーの制裁強化を検討し、具体的にはロシア産石油価格に上限を設ける仕組みづくりの開始で合意しましたが、買い手が価格上限を設定してもロシアが売らないといえばそれまでで、ロシアの収入を減らし他国への副作用を抑えるという2つの目的を同時に達成できるとする米国の主張は消えてしまう状況となりました。
エネルギーインフレはバイデンではもはや止められない状況に
ウクライナ侵攻を果たしたロシアから天然ガスも原油も一切購入しないことを世界が合意すれば確かにロシアの戦費調達を遮断することになりますが、実際には喉から手が出て購入してしまう国も多いのが実情であり、そもそも米国の動きに賛同するのは世界の3割程度の国しか存在せず、バイデン政権はサウジ訪問でもG7、G20でもエネルギーインフレを抑制することが全くできずに終わったことが鮮明になりました。
最近では中間選挙までにインフレ対策ができないことから、バイデン陣営は共和党のトランプを敵視する戦略に変更し、民主党を選ぶのか共和党を選択するのかの信認投票の正確を高めようとしているようですが、その背景にはこうした交渉がうまくいっていないことが大きな原因となってしまっているようです。
FRBのインフレ対策は市場が楽観視するほど早く終わらない可能性も
市場では単月の米国CPIが40年ぶりに9.1%にまで跳ね上がり、米債金利が上昇、ドル円は139円超まで跳ね上がりましたが、15日に発表された7月ミシガン大消費者信頼感指数の長期期待インフレ率が1年ぶり低水準となったことから、7月のFOMCで100ベーシスポイントの利上げは回避される見通しとの観測が広がり、米株が大きく買い戻されるという楽観的な動きを見せました。
しかしここから年末にかけてロシアが報復に対する反撃に出て、エネルギー輸出価格を大幅に吊り上げるようなことになればインフレはそう簡単には終息しないことになり、FRBも7月に75ベーシスポイント利上げしてその後は様子を見るという悠長なことは言っていられない状況が継続しかねず、7月が債券金利のピークになるかは断定できないのが実情となりはじめています。
こうなるとドルは対主要通貨でさらに上昇することもあり得そうで、年後半は米国中間選挙をにらんで米株がある程度戻すことや、ドル高一服といった見方は実際にその段階になってみないとはっきりしないというが正直なところのようです。
市場は過去14年近い相場を経て、なにか危機的状況が起きればFRBがなんとかしてくれるといった妙な楽観的姿勢を崩していませんが、このインフレをFRBが本当に乗り越えられるのか、そして並行して襲ってこようとしているリセッションにも対応できるのかは危ういところにあることをあらかじめ意識しておく必要があるでしょう。