1992年9月16日はジョージソロスの猛烈なポンドショートに英国中銀が利上げと為替介入のポンド買いで対抗したものの、即日完敗を喫することとなってから30年もの月日が経過しましたが、気がつけば英国ポンドは対ドルでそれを下回る水準に陥っています。
9月第三週ポンドは対ドルで1.13ドル台半ばまで下落し、1985年以来37年ぶりの安値水準にまで下落しています。

90年代初頭、欧州圏は東西ドイツの統一後インフレが非常に進み、英国でも90年代初頭にすでに10.9%へと上昇し、足もとの状況と同じようなインフレが国民生活と経済を襲っていた真っ最中でした。
当時はユーロ導入を視野に欧州圏では為替相場メカニズム(ERM)が導入され、英国も不況対策としてこの制度に参加していました。
この事実上のペッグ制に参加したことで、ポンドはその実力以上に上昇し凄まじい割高感を示現することとなり、大きな問題となっていました。

失業率上昇、経済停滞でそれを見ぬいたジョージソロス率いるクォンタムファンドは92年9月16日にポンド大量売りを仕掛け、他の投機筋も賛同しそれを追ったことからファンド対中央銀行のバトルへと発展してしまいます。
イングランド銀行は公定歩合を即日12%、さらに15%へと引上げ、外貨を使ってポンド買い介入を実施しますがそれでもポンド売りは止まらず、結果ERMの脱退を余儀なくされ変動相場制へと移行するという凄まじい歴史的イベントとなってしまいました。
これはブラック・ウェンズデーとして今も語られていますが、足もとのポンドの水準はそれをさらに下回ろうとしているので、穏やかな話ではありません。

Data Tradingview
Photo EPA時事

英国では9月6日トラス新首相が就任して新内閣の顔ぶれが発表され、一時的にポンドも期待で買われる場面がありました。
財務相にはジョンソン前政権で民間企業・エネルギー・産業戦略相を務めたクワーテング氏が選ばれ、黒人初の財務相に就任しました。
外相のクレバリー前教育相および内相のブレイバーマン前法務長官も共に白人ではないことから、かなりダイバーシティが意識された内閣になっていることは間違いありません。

ただ話題性とは逆に英国が直面している経済状況は、ウクライナ戦争の影響をもろに受けてエネルギー分野で凄まじいインフレを起こすようになっており、ややもすればとてつもないリセッションに陥る危険性が日々高まりつつあります。
果たしてトラス新首相がこの難局にどのように立ち向かうのかが、就任早々大きな注目点となっています。

Photo NHK

その一方で時を同じくするかのようにエリザベス女王が8日亡くなり、19日には国葬が実施されるなど英国を取巻く話題がとても多い状況が続いています。

ただ、その影に隠れるかのように英国も凄まじいインフレに見舞われています。
22日のMPCにおいてもBOEは50ベーシスポイント以上の利上げを目論んでいるようですが、トラス政権は国民生活がエネルギーを始めとするインフレに脅かされないように広範な財政出動を行うことで救済に務める意向が強く、政権と中央銀行の政策がかなりちぐはぐなものになろうとしています。

インフレ率となると米国のCPIだけがクローズアップされがちですが、すでに英国の8月CPI・消費者物価指数は米国を超える9.9%レベルとなっており、欧州をはじめ他の先進国と比べてもダントツに高い水準でインフレが進行しています。
こうなるとBOEとしては利上げでインフレに対抗せざるを得なくなりますが、これが景気をさらに冷やす要因となることは避けられそうもなく、中央銀行の政策が結果的に景気後退のスイッチを押す格好になっていることが非常に危惧されはじめています。

通貨水準は他の通貨との相対的関係ではあるがポンドはさらに沈みそうな状況に

Data Tradingview

直近9月のポンドドル相場を見ても右肩下がりの展開が継続されており、FRBの強気の政策で米国の金利がさらに上昇することになれば、相対的な関係からポンドがより売られる局面がこの年末に向けてやってくる可能性が高い状況となってきました。
エリザベス女王生誕の頃には1ドル5ポンドだったのでこの1世紀ほどでかなり状況が変化したともいえますが、英国ポンドはかつてないほどのさらなる下落の局面に立たされていることをよく理解してトレードする必要がでています。

国内ではボラティリティが高いという理由からポンド円の取引をする個人投資家が非常に多くなっていますが、このあたりの計勢的な英国の状況については十分に事前理解をしておくことが必須で、テクニカルだけで安易に取引をするのは非常にリスクが高い時間帯に入っています。
このことだけは常に意識しながらトレードを行っていきましょう。