世界の中央銀行相互の決済をする組織として有名な国際決済銀行・通称BISが12月5日に公表した四半期報告書において、年金基金を含めた非銀行金融部門が為替スワップ取引において抱えている簿外のドル建ての隠れ債務がなんと総額で80兆ドル、日本円にしてほぼ1.1京円も存在していることが明らかになり、市場の背後に存在する凄まじいリスクとして大きな話題になりはじめています。
BISは為替スワップ関連債務が金融監督上どこからも見逃されている状態で、政策担当者にとって状況が不透明なままの対応を迫られる恐れがあると警鐘を鳴らしています。

推定とは言え日本円で1.1京円規模という簿外債務は驚き以外の何物でもなく、このタイミングにあえてBISが警告を発し始めた点にも関心が集まります。

リーマンショックや新型コロナ感染拡大の相場暴落でも流動性逼迫

年金のスワップ取引というと、今年10月にトラス政権下で7.6兆円規模の大規模減税が財政不安を招くとの見方から英国債が猛烈に売られ、金利が大幅上昇し年金基金のLDI(Liability Driven Investment)という手法が完全に破綻しかねない状況に陥り、英国中銀が慌てて英国債の買上げて難を逃れるという騒動が起きたばかりです。
このLDIは日本語で言うなら債務重視の運用と呼ばれるもので、金利スワップ等のデリバティブを利用して資産と債務のキャッシュフローを近づけ金利スワップで受け取るキャッシュフローを負債にマッチングすることにより、債券や株式等の現物資産では対応できない企業年金特有の複雑で超長期のキャッシュフローを複製することを目的とした手法とされていますが、その実態はよくわかっておらず、その割に多くの国の年金基金がすでに広範囲に利用しているという話もあって危惧されはじめた手法ともいえます。
恐らくBISが調査をしたのもこの問題が起きたことがきっかけであろうと思われますが、帳簿に現れない簿外債務としてすでに日本円にして1.1京円も存在しているというのはさすがに驚きの事態といえます。

為替スワップ市場では2008年のリーマンショック時や、2020年3月に起きた新型コロナ感染爆発起因の時に流動性が著しくひっ迫し、FRBは凄まじいドル供給による介入を余儀なくされていることは記憶に新しいところです。
2年前の3月の暴落相場で一旦大きく下落したドル円が猛烈な勢いで買われることになったのは理解にしくい状況でしたが、背後にこうした動きがあったとなると実に理解できる状況であるともいえます。

BISは今回の報告書で年金基金などが外貨スワップなどのデリバティブで借り入れた所在が分からないまま増えつつある巨額の債務が発火点になって相場の大暴落を引き起こす可能性を予想しているようで、危機時には金融システムで円滑な短期ドル・フローを回復するための中銀スワップラインといった政策が視界不良の中で設定されることになるとしていますが、果たして本当に各国中銀が連係してこうした危機を乗り切れるのかどうかが大きなポイントになりそうです。

非年金の簿外債務を減らすことは果たしてできるのかが大きな課題

上述のLDIについては珍しく米国が最先端というよりもは英国、オランダ、デンマークなど欧州の国々が積極運用をしているのが実情で、これらの国々では会計や年金財政上の基準がいち早く変更され、年金債務の動きを即時に認識することになっています。
ただ年金に関しては遅延認識という会計制度が広く認められてきたことも事実で、これからは即時認識を行うことで損失の正確な把握に勤めるなどの措置を強化することが求められることになりそうです。

いずれにしても金融市場にこれだけ莫大かつ正確に金額の把握できない簿外債務が存在し、それに年金基金が深く関わっているのは相当驚きの状況で、次に相場の大暴落が起きれば我々の想定外の部分で激しい損失が炸裂するリスクがあることは予め認識しておきたいところです。
すでに金融市場は広範なリセッションの到来を控えて大幅な下落局面に直面しているとも言われており、早い段階で各国中央銀行が処方せんを出していかないと過去にない大暴落を引き起こす可能性が残りそうで、2023年に向けてはこの部分でも引き続き状況を見守る必要があります。