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市場では日銀新総裁である植田氏が、国会での就任前の24日午前に行われる所信聴取と質疑の内容に注目が集まっています。
任命のための国会承認であることはご自身も十分に把握されていると思われるので、この場で波風を立てる発言をあえて行う可能性は極めて低いものと思われますが、日本国債の市場はそんなことは一切お構いなしに再度JGB売りが始まっており、植田新総裁は就任早々このYCCの問題にどう対応するのかが大きな問題になりはじめています。

新総裁がだれになろうとYCCの制御は不能とみはじめた市場

大きな枠組みとしてはマクロ経済に精通した学者出身で、MIT学派にもつながっている植田氏がこれまでの黒田政策をどのように新たな政策に舵を切っていくのか、さらに10年続いた緩和の巻き戻しをどのように実現するかに注目が集まりますが、リアルな日本国債市場はそんな生やさしい状況ではないようで、すでに10年債の売り浴びせが再開しています。
本年1月18日以来JGB10年ものは共担オペの実施効果などもあってか一旦かなり利率が下落して推移していましたが、21日の市場で長期金利は0.505%となり、日銀が公言してきたYCCの上限0.5%を超え始めています。

このイールドカーブコントロールは2016年に黒田総裁のもとで2016年9月の日銀金融政策決定会合で新たに導入した政策枠組みで、従来から日銀が行ってきた金融抑圧の具体的手法とも言えるものです。
米国でも長短金利を調整するという意味ではイールドカーブコントロールが実施されてきた過去がありますが、長期金利を一定のレートより一切上に上げないことを中央銀行が明確に政策に織り込んだのは史上初で、それまで日銀のホームページですら長期金利は中央銀行が制御できるものではないとしてきたものから完全に踏み込んだ、ある意味神をも恐れぬ政策となっていたわけです。

日銀が持ち出してきたYCCの手法は極めて簡単で、とにかく市中からどんどん国債を買入れることで一切金利を上昇させないというかなり強引なものとなりました。
世界的に低金利が基本で主要中銀が緩和政策を進めていたときには特に目立つものではありませんでしたが、現状で国内のCPIが4%を超え始め、それなりのインフレが進む中にあっては日銀だけが緩和を続け、しかもYCCの上限設定をし続けることには限界があると市場は見抜き始めてるのが実情で、昨年12月20日の日銀会合で黒田総裁がサプライズ的にYCC上限を0.5%に引き上げた段階でこの仕組みの破綻もしくは終わりが相当近いと見る投機筋が激増していることが10年債金利のYCC上限超につながっているものと思われます。

前任者が履行した政策でも闇雲に否定する訳にはいかない植田氏

植田氏は筋金入りの学者なので中央銀行の金融緩和政策やYCCに対してはそれなりの持論をお持ちのはずです。
しかし新総裁はとりあえず日銀の現行の緩和政策を継続して引き受けるところから始めざるを得ないのが現状で、民間企業で新任のCEOが着任した早々前任者の政策を否定して新しい方針をいきなり打ち建てるといったドラスティックな方法を持ち込むことが出来ないのがなかなか厳しいところです。

YCCについても植田氏はそれなりの評価や感想はあるはずですが、それをいきなりあからさまにもできず、自ら発想・実施したわけでもない政策を評価しているように振舞わざるを得ないのはかなり気の毒な状況といえます。
ただ、YCCは明確な政策なので12月に設定した上限を常態的に超えて推移し、それが定着化するとなれば実態にあわせて上限をさらに引き上げるのか、思い切って政策自体を終わらせるか位しか対応策がないのが現状で、市場はいつ植田新総裁がこの件について口火を切ることになるのかを固唾をのんで見守り始めているようです。

YCC上限0.75%と口走った途端に金利はそれを超える可能性も

12月のYCC上限上げが決定した時には、それまでJGBを売り向かっていた投機筋が凄まじい利益を獲得したようで、その事実の知ったほかの投機筋が二匹目のドジョウを目指してJGBを売り始めているといいます。
植田氏がどう判断するのかは現状では全くわかりませんが、ひとたび0.5%を0.75%の上限まで再引き上げすると言った途端に市場では猛烈な売りが加速して、簡単に0.75%を超えるのではないかという悲観的な見方が強まりを見せています。
本邦民間の金融機関アナリストの事前予想では、仮にイールドカーブ撤廃を口にすれば10年債利回りは即日1%を超えるとされており、恐らく0.75%上げにしても結果はほぼ同様の状況になるのではないかと予想されはじめています。

これで一番困るのはこれまで低利の時期にJGBを大量購入して保有してきた本邦の金融機関と期間投資家で、年度末に向けて含み損が激増し純資産をさらに減らすことになる点が危惧されます。
もともと無理を押しとおして行っていた政策なのでどこかで出口に向かい、巻き戻しを行えばそれなりの傷みを市場が伴うことになるのは避けられませんが、見方によっては日銀がYCCで市場に敗北したとも捉えかねないため、その対応は相当緊張感を伴うものとなることが予想されます。
実は就任早々からかなりクリティカルな局面に追い込まれていることがわかります。