金融機関の破綻というのは時間が経つにつれその重大さが徐々に露見するもので、2008年3月、丁度この時期のベアスターンズの破綻話が出た時も破綻はしないという金融専門家の話が出回ったものの結局破綻することになり、同年9月のリーマンブラザーズも結局あえなく破綻する形となりました。
このケースでは各社がサブプライムローンに絡んでいたことから業界横並びで破綻連鎖が引き起こされてしまったようですが、今回のSVBの破綻では取引のあった得意先企業に大きなダメージが出そうな状況で、我々個人投資家としては金融業界リスクと捉えるよりもベンチャー企業の資金難や仮想通貨投資会社のここからの経営状況の方をより注視すべき状況になってきていることがわかります。
金融機関の破綻は連鎖的な同業者への破綻波及が危惧されるものですが、どうやらそれとは異なるリスクが高まりを見せる展開になりそうで、リーマンショックとはまた別のネガティブな動きが顕在化することに相当な注意が必要になってきているようです。
米連邦預金保険公社(FDIC)の預金保護上限は25万ドルだが13日からは全額アクセス可能という情報も
米国には米連邦預金保険公社(FDIC)が設立されており、FDICとは米国の金融機関が破綻した場合に一定額の預金などを保護するための預金保険制度を運営している組織です。
米国内で預金を取り扱う金融機関は加盟が義務付けられ、当然今回破綻したSVBも加盟銀行となっています。
FDICの破綻処理では管財人の役割も果たすとされており、実際にSVBにも乗り込んでオペレーションを始めているようです。
ただ危惧されるのはこの1口座当たりの保護上限額を超えて預金をしてきた企業の問題で、3月初頭からこの銀行が危ないという噂は市場を駆け巡りったのでどれだけの企業が預金の引揚げに成功したのかが大きな話題となっています。
ちなみに2022年度末の預金口座の実に87.5% が上述のFDIC 保険の制限を超えているとされており、最後までのんびり構えて資金の引揚げを行わなかったベンチャー企業も相当多かったようで、これからの経営における資金繰りに相当な影響がでることは間違いなさそうな状況になってきています。
ただ直近の情報では米国政府が13日から全額預金アクセス可能とするといった情報もではじめており、状況は流動的です。
SVBのCクラスの3名だけが事前に持ち株を売り抜けるという異常事態に
ここで気になるのはSVBの経営陣がとった行動で、シリコンバレー銀行のCEOであるグレゴリー・ベッカーは、360万ドル相当(11%)の株式2週間近く前の2月27日に売却し、CFOのダニエルベックも保有する株式の32%(約60万ドル)の売り抜けに成功しています。
さらにCMOだったミシェル・ドレイパーも28%の売却を果たしており、この3名のCクラスの人物たちは完全にインサイダーでSVBが破綻するであろうことを事前に知っていた可能性が高まります。
さすがに金額が大きかったことから全額を売り抜けた人物はいなかったようですが、FDIC保険でカバーされない預金者が大半という厳しい状況下で経営陣だけが持ち株を売り抜けて平然としていられるはずもなく、当該事案は相当大きな問題に発展しそうな状況になってきています。
この問題は全米のメディアではすでに大きく報道されており、3名のCクラスのメンツは市場の納得がいくような説明を果たしてできるのかにも大きな関心が集まります。
イエレン財務長官はいち早くベイルアウトを否定
イエレン財務長官は、週末SVBについてはFDIC 保険の下で預金者保護を実施する旨を強調しましたが、米国政府としてはベイルアウト、いわゆる資金の提供による救済は行わないことも明言しており、これを受けてFDICは民間によるSVBの買取入札を実施したようで新たな購入先は意外に早く見つかる可能性もではじめています。
FRBがインフレ対策で実施しはじえめている強烈な利上げと資産縮小・QTはそれなりに市場に影響を与えているようで、これまで借り入れを含めて酷く低利で資金調達のできたベンチャー企業は債券の借り換えができなくなるといった事態に陥っているようです。
そこに今回のSVBのような破綻問題が起きて預金が召し上げられる形となっているためここからの経営は相当深刻そうで、既に民間ではベンチャーの資金繰りを救済するローンの提供などもはじまっているようです。
こうした厳しい情勢下でFRBは一旦利上げを止めるのではないかといった観測も出回りはじめていますが、イエレン財務長官の発言を見る限り米国はこうした出来の悪い金融機関を切り捨てる可能性もありそうで、3月21日からのFOMCにさらに注目が集まります。
SVBの先週末の突然の破綻は市場では相当意外な印象感を感じる投資家が多かったのは事実ですが、実は相当前からもう立ち直れないことを経営陣が熟知していた可能性は高く、金融機関に新たな問題が提起されることになりそうです。
いずれにしても相場に与える悪影響は簡単には収まらなさそうで、ここからネガティブな報道が出る度に相場の下落リスクを考える時間帯が続きそうです。