7月28日の日銀政策決定会合で日銀が打ち出したYCC政策維持、短期金利と長期金利誘導目標も維持ながらYCC運用の柔軟化するという政策変更は発表当初国内でも理解できなかったので海外勢にとっても意味不明で、それを理解して相場に織り込むのにはかなりの時間が必要となりました。
為替的にはあえてYCCの上限金利上げを容認するようなことを言って為替介入ではなく一定の円安鎮静効果を持ち出してきたのではないかと言う見方が強まり、これが岸田政権の要望によるものなのではないかという憶測も高まったわけですが、週が明けてみますと先週金利が0.6%という低い状況で指値オペやら緊急オペを行ったことから、市場はYCCで円高操作をするつもりではないことを素早く読み込んでしまったようで、ドル円は上昇、日経平均も緩和継続であることを確認して上昇することとなり、まずこの時点でYCCの運用樹軟化という政策変更は市場になんの変化ももたらさないことが折り込まれることになりました。
YCC の修正が金融引締めとして市場に受け止められ円高と株価下落を阻止することが日銀の隠れ目標であったとすればここまでは一定の成果があったと彼らも思っていたはずですが、過度な円安の阻止が本来の目的であったとすれば政策変更は大外れで、このあたりについては市場の評価もまちまちな状況であったといえます。

フィッチの米国債格下げで市場は劇的に変化し日銀では制御不能に

その後日銀の政策をまるで待ち構えていたかのようにUKのフィッチレーティングスが実施した米株のたった1ノッチの格下げが日本株市場とドル円の動きに大きな変化をもたらすことになってしまい、普通に考えても理解しにくい今回の日銀の意味不明政策変更は完全に詰んでしまう事態に追い込まれてしまいます。
さすがに事前に格下げの動きを察知していない中でYCC運用の柔軟化を日銀が打ち出してしまったのは不幸としか言えない不可抗力の状況ですが、依然としてインフレ懸念が続く状況下での米債格下げは結果的に世界の長期金利上昇圧力となって市場に示現することになり、主要国を中心に株価はその影響をもろに受けるかたちで株安が進行してしまいます。

中でもとくにこの格下げをうけて売りが進んだのが日本株で、円安を背景にして円安と緩和継続の低金利が後押しする形で日本株に積極投資をしてきた海外投資家は一転して投資妙味を失い株は一目散に売却、さらに為替のヘッジをはずして株売却で手にした円をここからすかさずドル転に廻る可能性は極めて高く、格下げ当事国である米国よりも日経平均のほうがはるかに大きな下落を喫してしまいました。

冷静に考えれば今回日銀がYCCを撤廃していたとしても同様の問題が起きていた

日銀は今回YCC運用の柔軟化というわかりにくい政策を持ち出し、米国債の格下げで欠課的に市場制御不能の大惨敗という痛手を被ることとなったわけですが、これがもしYCC撤廃を打ち出していても同じ結果になっていた可能性が高まります。
つまり自国の金利だけをコントロールする政策を打ち出しても世界的にリスクオフで債券が売られ、どこの国でも金利が上昇するような局面では市場を制御するのは非常に難しいことがあらわになったということです。
世界的にゼロ金利が進行していた時代ではYCCは上手くコントロールできる施策にみえましたが、今回の米国の格下げのようなことがおきて金利上昇を止められなくなると結局日銀だけでは制御ができなくなる事態に直面することも相当意識しておかなくてはならないということです。

米国が気にするジャパン緩和マネー500兆円の日銀政策修正による国内回帰

米国は常に日本に対して少なくとも2024年の大統領選挙が終わるまでは、利上げなど緩和の巻き戻し政策を行わないように強く働きかけを行っているという話はあちこちから聴こえてきています。
本邦の中にいると日銀の緩和継続がそんなに世界的な市場流動性を支えているのかと不思議に思えるものですが、実は黒田緩和がはじまってから今日に至るまでマイナス金利の日本から海外に出て行った緩和マネーはすでに総額で531兆円と膨れ上がり、10年前の約7割増加したことが判っています。
まさにこれが海外証券投資を支えているものであり、日銀が政策変更して米国と同様に利上げを行い始めた場合この資金のほとんどが日本に里帰りすると予想する市場関係者も増えています。
これが現実のものになると米債金利はさらに上昇し、株価や不動産などの価格が軒並み下落することになるので米国が危惧するのは当たり前の話で、日本がどれだけインフレになってもとりあえず緩和をやめるなと強硬姿勢で臨んでくるのも良くわかる状況です。

海外の投機筋は日銀会合があるたびにYCCの修正やら撤廃を期待して円買いを行ってきましたが、実際にはまだ明確にはそういう動きにはなっていないものの、その先に控える本格的な緩和の巻き戻し政策が実施された時にはとてつもない本邦緩和マネーの日本回帰で相場は想像を絶する変化に見舞われるリスクがあることをしっかり理解しておかなくてはなりません。