Photo:日銀

9月9日、読売新聞に突然掲載された植田日銀総裁のインタビューをきっかけに、市場では日銀は一体何を考えているのかという疑問が急激に高まりつつあります。

それもそのはず、世界的にインフレに苦しむ国々が増えつつある中、とうとうあのトルコ中銀でさえインフレ対策で利上げを実施したわけですから、月次CPIが3.6と米国のそれを上回ってもマイナス金利を継続する日銀のやり口は常軌を逸した状態であることは間違いなく、海外投資家の多くが、早晩緩和措置を巻き戻すと考えるのは実に自然な状況と言えます。

しかしながら、植田総裁をはじめとする日銀重要メンバーの発言は、国内でも日銀文学などと呼ばれるように非常に判りにくく、海外勢がそれをしっかり理解できる状況ではないため、これからどう政策を変更していくのかについては、しばし期待と疑問が交錯する時間が続きそうです。

今週23日には、日銀政策決定会合の結果発表がありますが、海外勢の一部は依然として政策変更を期待しているのが実情で、今後政策決定会合が開催されるたびに、相場は上下動して荒れそうな雰囲気になりつつあります。

大人の事情が複雑に背後で絡み合う植田総裁の立ち位置

植田氏も総裁就任から半年程度は政策変更をせず様子見なのではないかという邦勢からの観測どおり、当の本人は7月の会合でYCCの金利上限を最大1%まで許容するという運用の柔軟化だけにとどまっています。

しかしその一方で、10年債金利が0.6%に上昇するとすかさず指値オペを行い、金利上昇を食い止め緩和を継続する姿勢を見せています。

この辺りの政策実施は、海外勢から見ると非常に判りにくく、本邦勢ですら緩和を巻き戻すつもりがあるのか、それともそのまま放置するのかといった点に大きな疑問が投げかけられています。

就任当初、植田総裁はMITで博士号まで取得する本格的な学者であることから、黒田総裁時代とは変わった政策を打ち出してくるのではないかといった期待を持たれていた反面、黒田緩和を続けることを大前提として新総裁に任命されているため、簡単に緩和をやめることができないのではないかという見方も強まっています。

さらに総裁選レースでは一切植田氏名前が上がっていなかったことから、実は米国サイドから強く要請され岸田首相がそれを受けて独断で決定したのではないかといった複雑な背景も囁かれています。

実際問題、米国財務省は日本が緩和措置を続けているからこそ、金融市場に流動性がもたらされていると評価しており、少なくとも来年11月の大統領選が終わるまで、緩和を続けることを強烈に要請してきているという話も出回り始めています。

確かに、過去10年の黒田緩和で530兆円を超える緩和マネーが日本から海外に流出しており、しかもその7割が米国の金融市場に流入していると言われています。

ここから日銀が利上げに転じその多くが国内に回帰するような事態になれば、米株市場に大きな影響が及ぶことは間違いありません。

こうした背景を抱えながら植田総裁が政策変更を考えているのであれば、変更が後手に回るのは当たり前で、当面大きな政策変更は望めないまま来年を迎えることも十分あり得る状況と言えます。

政策決定会合のたびに変更期待のドル円売り・失望の買戻しの繰返しか

本邦勢がすっかり日銀の政策変更を期待しなくなっているのも異様な光景ですが、ここからは日銀政策決定会合のたびに海外投資家の期待とのギャップが鮮明になることにはある程度覚悟しなくてはならない状況です。

つまり事前段階でドル円が売られ、結果を受けて失望から買戻しになるという動きがそれで、23日の政策発表でもこの動きが明瞭化されるであろうことは容易に予測できます。

主要国の中銀政策決定会合でも市場の予測と結果が異なることはよくありますが、日銀が置かれている状況はそれとは異なります。

主要国のまともな金融政策と全くかけ離れたところを彷徨い、軌道修正を一切しようとしない点が市場の理解を著しく遠ざけていると言えます。

読売新聞のインタビューでも、植田総裁は一般論として政策変更の可能性を口にしたのでしょうが、市場はそのように受け取らなかったということが問題であり、今後市場とのコミュニケーションをどれだけ風通しのいいものにするかも、日銀が抱える大きな課題になりつつあります。