植田総裁は訪問先のワシントンで、物価が持続的に上昇すれば、一時的な要因を除いて追加利上げの可能性が高いとの考えを示しました。
利上げを巡っては、3月の日銀会合の結果を受け、現状維持が続くとの見方が強まっていましたが、ここに来て今月の日銀会合に大きな注目が集まっています。
足元では円安が急激に進んでいるだけに、日銀は利上げを示唆することにより、円安を牽制する目的があったと見ることができます。
さすがに今月の会合で、追加利上げを実施する可能性は低いものと見られますが、今後利上げを示唆する発言が出るたびに、市場は円買いに反応することが予想されます。
そのため、今週後半にかけてのドル円の動きには十分な警戒が必要となりそうです。
ファンダメンタルズ的にはドル円さらに上昇の可能性も
このところの急激な円安を受け、G7財務相・中央銀行総裁会議に出席した鈴木財務相は18日、日米の金利差は円相場を下押しする多くの要因の一つに過ぎないとの認識を示しています。
確かに一般論としてはそう言うことができますが、FRBによる利下げの可能性は大幅に後ずれしており、日米の金利差がドル高円安に大きく作用していると言うことができます。
今年3月には、利下げが年間6回実施されるのではないかとう、前のめりで楽観的な予測が跳び出したにもかかわらず、3月のFOMCでは年間3回の利下げ見通しとなり、その後は早くても6月からの実施へと後退しているため、6月の会合でも現状維持で利上げなしとの認識が広まっています。
さらに7月、9月は米国大統領選への影響を配慮し、実施は先送りとなることが予想され、結果的には年2回、最悪の場合は1回も利上げを行わない可能性も浮上しています。
インフレ指標の結果次第では、逆に利上げの可能性さえもあるため、ドル円の直近の動きは鈴木財務相の意に反し、ファンダメンタルズを反映したものとなっているのは確かです。
日銀が利上げにでも踏み切らない限り、この流れが変わることはないということは、日銀自身も理解しているはずであるため、今回のような発言が出たものと思われます。
G7、G20各国は為替介入ではなく利上げで円安を阻止するとの認識
G7をはじめG20各国は、日米における金融政策の乖離が、円安を加速させる原因となっていることをよく理解しています。
そのため、ドル円が34年ぶりに155円に接近する事態に陥っても、為替介入により解決するという方針には理解を示しておらず、2020年に介入を容認した米国でさえ、イエレン財務長官が状況は理解したと口にするに留まっています。
ドル円が152円に到達する前に、あらゆる手段を使って円安を阻止するとした、神田財務官の発言は口先介入そのもので、実際のところ財務省は国際社会からの理解を得られていないことが浮き彫りとなりつつあります。
日本は今回の会議において、介入の目的はスムージングであることを苦し紛れに説明しましたが、これにより激しい相場変動がない限り介入できないことを改めて認める結果となりました。
財務省と日銀はこれまで、米国の承認を得て強引に円買い単独介入を行うことを画策してきましたが、利上げ以外に円安を阻止する方法はなくなりつつあります。
金融政策の行方が問われる、次回の日銀会合に大きな注目が集まっています。
円安回避に難しい舵切りを迫られる日銀
3月の日銀会合で日銀は、ついにマイナス金利解除を実行に移すことができましたが、今後インフレの進行に合わせて利上げができるのかどうかについては、これまで何度も緩和的に進めると口にしてきていることから、実施は難しいことが予想されます。
その足枷となっているのが国債であり、GDPの250%以上も発行してしまった国債の金利が上昇すれば国債費が増加することになるため、ゼロ金利を継続せざるを得ないとの見方も強まっています。
日銀は既発債の60%を保有しているため、金利が上昇すれば、保有国債の含み損の増加につながり、帳簿上にはなくても、日銀が事実上の債務超過に陥ることが懸念されています。
さらに米国からは、11月の大統領選挙を前に、日本が闇雲に金利を上昇させ米国市場に供給してきた流動性を枯渇させるようなことがないよう釘を刺されていることは間違いありません。
こうした材料を踏まえると、結局のところ今年は利上げに着手することはできないのではないかとの観測の方が優位性がありそうです。
主要国が利上げを実施する中、日銀は長らく金融抑圧政策を続け、マイナス金利とゼロ金利を断行してきた立場にあります。
そのため、国際社会から円安に歯止めがかからない現在の状況は、自業自得であると見なされても仕方がありません。
米国にすがれば、国際社会の厳しい目もすり抜けられると楽観視していたことへのツケが回って来た今、難しい舵切りが求められそうです。