3月最終週、東京タイムで朝から騒ぎになったのが野村が発表した米国子会社が2000億を超える規模の損失がクライアントとの取引上で発生する恐れがあるといった非常に抽象的でわかりにくい内容の発表でした。
その後、徐々に情報がでてきてわかってきたのは当該案件が元タイガーファンドのビル・ファン氏のファミリーオフィスである、アルケゴス・ファンドが保有株の価格が下落したことで追証が発生し、強制決済から取引き金融機関にも応分の損害がでたという話でした。
業界内では先週段階からこのアルケゴスがブロックとレートを行っていることはかなり知れわたっていたようで、金融当局を含めて大きな関心が集まっていたことが今更わかりはじめています。
今回話題になったブロックトレードとは証券会社を通じて同一銘柄を一度に大量に相対取引で売却または購入する取引のことで、いくつかの銘柄の名前としてはテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループ(騰訊音楽娯楽集団)と百度(バイドゥ)、愛奇芸(iQiyi)、唯品会(ビップショップ・ホールディングス)が含まれるとされていますがすべてが開示されているわけではないのでそれ以外の銘柄は不明の状況です。
いうなればひとりミンスキーモーメントといったところで、追証の資金を集めるために保有株式を処分する行為が先週行われたものと思われます。
ビル・ファン氏は相当な問題人物
今回大きくクローズアップされることになったビル・ファン氏は個人資産約200億円をアグレッシブなレバレッジ投資で1兆円5千億まで拡大し、その1兆円5千億を証拠金に最大8兆円のポジションをもって売買していたとされており、今回の問題でほぼ2兆円程度の追証が発生してデフォルトしたとされています。
この人物は2013年にインサイダー取引で捕まったことがありその後5年間取引き禁止措置を食らっている存在ですから、ゴールドマンなどの社内コンプライアンス規定から言えば口座を開設させて取引きに応じるような人物ではないはずですが、なぜか取引きできていたという点は米系金融機関の緩さを感じさせられる次第で、クレディスイスも野村も同じ問題を抱えることになっています。
ファンドのデフォルトといいますと1997年のLTCMの破綻が思い起こされるところですが、当時LTCMは47億強を原資として25倍というかなり高いレバレッジを使って1290億ドルを運用し1.25兆ドルという莫大な取引きを行ったことから株の下落が起因して一発でデフォルトになったわけですから、今回のアルケゴスの件もそれに準ずる位の過剰なポジション保有が大きな原因になっている可能性がありそうです。
この問題が表面化した3月29日の米株市場は立ち上がりはかなり売られることとなりましたが、連鎖的に問題が発生したファンドも見当たらなかったことや全容が依然としてすべて詳らかになっていないことなどから相場全体として大きな売りにはならずに済んでいます。
ただファミリーファンドは情報公開の義務がないことから問題の中身がどのようになっているのかの詳細が判らないのが実情で、細かく内容が開示されてきた場合にはまた別の展開となるリスクも残っていそうで引き続き注意が必要です。
バブル期の最後のステージはこのような摩訶不思議な問題が次々と起きて結局バブルが崩壊するということがよくあるものですが、今回のこのケースがなにかの引き金になってさらに大きな問題にならないことを祈りたいところです。
2008年のリーマンショック以降、ボルカールールの適用など米国金融機関は厳しい制限を加えられてきたものですが、トランプ政権でそれらが骨抜きになってしまい、またしても緩い取引が市場に戻ってきている感は否めません。
ここからも引き続き当該案件の進捗について十分に注視していきたいところです。