Photo Getty images

バイデン米大統領は4月27日、連邦政府と契約する企業で働く労働者の最低賃金を時給15ドル(約1600円)に引き上げる大統領令に署名しました。

現状における最低賃金は10.95ドルですから37%の上昇ということで、ほとんどの企業が足並みを揃えることになれば低賃金の労働者にとってはかなり喜ばしい話になりますが、現実はそう簡単ではないようです。

むしろ米国内の雇用にとっては大きな危機に直面するのではないかという悲観的な見方も強まりつつあります。

一体、米国の労働市場で何が起きてしまうのかというと、それは単価の上昇ではまったく解決のつかない大きな問題を引き起こしかねない状況となっているようです。

コスト増を容認しない米国の雇用主は雇用者数を減らす可能性も

バイデン政権が繰り出してくる政策はかなり左派の意向が盛り込まれているようで、この最低賃金の上昇問題も明らかにオカシオ=コルテスなどの民主党左派勢力の主張がしっかり織り込まれており、今後米国はさらに社会主義的な動きを強めていく可能性が高まりつつあります。

個人の報酬が増えればそれだけ個人消費も拡大するわけですから経済的にもプラスに働く要素が大きくなるわけですが、実際には必ずしも喜べない問題が顕在化してくることになります。

雇用単価が上昇するとコストに厳しい米国の経営者は雇用人数を減らしにかかることで37%の最低賃金上昇となれば3分の1の人材をクビにしてコスト上限を同一に抑える動きに出る可能性があるからです。

人の雇用を減らした分はロボットやIT利用の領域を増やすことになりかねないため、結果として最低賃金の上昇は失業者の増加を懸念も出始めているのです。

最低賃金はしっかり順守されるようになっても単純労働を益々人間が担わない世の中が示現しそうで、これをどう評価するかは非常に微妙な問題になりそうです。

いまや先進国のどこの企業でも固定化しがちが労働コストをできるだけ低減すること大きな目標にしているのは非常に残念な状況です。

本邦も状況は同様ですが、資本主義の先進国の米国でも全くこの問題が解決しないというのはかなり深刻です。

ロボットやAIは人の仕事を奪わないとされてきたが事実は逆かもしれない

これまでロボットやAIが普及することは決して人の雇用を奪わないとされてきましたが、実際に利用が進んでみますと単純で誰でもできるようなコモディティ化された業務はやはり人の雇用を奪ってしまうことが現実のものになりつつあります。

米国のサービス業は本邦の業態に比べてもかなり生産性が高い業種が多いとされていますが、それでもこうした問題に直面してしまうわけですから、今後仕事にあぶれた労働者はどうやって生きていけばいいのかは大きな問題になりそうです。

結局MMTの発想のように個人はベーシックインカムのような給付金を得て暮らしていくという生産性の低い世の中へと逆戻りすることも考えられ、入口は最低賃金の改善の問題ですが結果的には米国の資本主義社会の屋台骨を大きく崩してしまうことになりかねない政策にバイデンが手をつけてしまった可能性がありそうです。

本来、資本主義の基本では雇用の需給が圧迫すれば雇用単価も上昇するのは当たり前だったわけですが、21世紀の現在はそうはならなくなっています。

しかも資本主義を支える屋台骨として存在しなくてはならない中間所得層がどんどんいなくなり、低所得者多数とごく一部の富裕層だけで構成される社会を今後どう変えていくのかも大きな課題になりそうです。

雇用の問題はいきなり景気に関連しますから株や為替にも微妙に影響を与えるファクターであることは間違いなく、バイデン政権のこの政策の行方をしっかりチェックしていく必要がありそうです。