バイデン政権は今年10月からスタートする2022年度の予算について総額6.1兆ドル、日本円にして実に660兆円超の金額を提示して市場の度肝を抜いています。

大きな政府を目標とする民主党政権のことですから規模の大きな予算が組まれることは誰もが一応は想定してきていますが、さすがにこれだけの金額を提示してくるのはかなりの驚きをもって受け止められています。

市場では来年度も緩和措置が続きリスクオンの楽観的な相場が続くことになるといった見方が強まりつつありますが、このタイミングに発表されたドキュメントを読み込んでみますと必ずしも新しいことに大きな予算を組んでいないことが見えてきており、意外にもその中身は地味であることが見えてきます。

新たな予算要求は3000億ドルに留まる内容に

今回の予算提示で開示されたドキュメントによりますと当然現段階では確定している事は何もありませんが、総額規模が巨大な割には新年度に新たな予算として要求されるのはたった3000億ドルのみでそれ以外の予算はメディケア、社会保障、累積した国家債務の利息負担などがほとんどですでに膨張しまくった国家予算と累積債務の対応に大きな資金が必要になっていることが明確に表れている状況となっています。

バイデン政権はすでに子供手当の名目で実質的なベーシックインカムのような仕組みを導入していますからこうした施策をつづけるためにも莫大な予算が必要になっていることを物語っていることがわかります。

予算原資はMMTに頼らず法人税増税、キャピタルゲイン課税に一定依存する意向

今回の予算プランで非常に興味深い状況となっているのが多額の財政出動による大きな予算措置がすべてMMT理論に基づきFRBがすべてを負担するのかと思った予算原資の問題で、企業への増税の実施とともにキャピタルゲイン課税についてはその税率を2021年4月に遡って課税を実施するとしていることで、かなり金融市場での投資家の利益を増税でキャッチアップする予定であることが明白になりつつあります。

特に2021年4月にさかのぼるという考え方は今更慌てて金融資産を売って利益を確保しても徴税するという意向が明白であり、強引な増税となることが予想され始めています。

来年以降の米国経済についてはかなり楽観的な数字を想定

バイデン政権が予測する今年から3年の経済予測推定では既にコロナ禍は完全に克服状況にあることを示唆しており消費者物価指数は2021年は2.1%、2023年は2.1%、2023年は2.2%で急激なインフレは想定してはいないものの堅調に物価は上昇で推移するものと予測されています。

実質GDP成長率についても2021年が5.2%とコロナ禍での猛烈な落ち込みを脱して大幅回復で、2022年は4.3%、2023年は2.2%とゆるやかに低下することを見込んでいるようです。

ただし22年から31年までの10年間では42%成長を想定しているのはいささか楽観的すぎの状況でバラまきでかなりGDPが大きくなることを期待しているものの、そこまで成長するのかどうかに大きな疑問が生じることになります。

足もとでは米国のGDPを1ドル増やすためには7ドルのコストがかかるとも言われていますから、これだけ莫大な予算を投入しても経済成長に結びつくのはかなり限られた金額になりかねず、経済の先行き見通しが大きく狂う可能性も依然として残されていることが気になります。

これだけの巨額予算を投じれば当然発生するのがインフレですが、イエレン財務長官が口走っている年内はインフレが継続するが一時的なものに過ぎないとする発言が本当にそのまま反映することになるのかどうかにも注目が集ります。

こうなると中長期的にはドル安が進むことは避けられないようにも見えますが、果たしてFRBがどのような政策に打って出るのかにも大きな関心が集まりそうです。

7月末には前トランプ政権が2年間の猶予とした財政の崖の先送りの法律が終了することになりますからまずはこれをクリアする必要がありますし、ここからは米国の予算問題、増税問題が金融市場でも大きな相場材料になることが予想されるところです。