中国の中央銀行に当たる中国人民銀行は8月22日、この国の事実上の政策金利に該当する最優遇貸出金利・LPR(ローンプライムレート)を利下げすると発表しました。具体的には1年金利を0.05%、5年物を0.15%の利下げとなり、利下げ幅は決して大きくはないものの欧米がインフレ対策で金融引き締めを進めるのとは対照的に中国は新型コロナ感染拡大で想像以上に悪化している景気を利下げで下支えしようとしていることが窺える状況です。LPR1年物は優良企業向け貸出金利の指標であり銀行はこれに基づいて貸出金利を決めるため、このレートの引き下げは企業への融資を確実に増加させる効果を持つことが判ります。また住宅ローン金利に影響を及ぼすことになるため不動産業界にもプラスに働きはじめています。
キャピタル・エコノミクスの中国エコノミストは年内に政策金利の10bp引き下げがあと2回あると予想し、来四半期の預金準備率(RRR)引き下げも見込んでいるとしていますので今回の利下げはまだ途上の可能性が高い状況です。

豪ドルは意外にも買いで反応

この発表を受けて最も影響を受けると見られていた豪ドルは中国経済が景気下支えとなることのほうに反応したようで、豪ドル買いで反応したもののここから先がどうなるのかが注目されるところです。米ドルはジャクソンホールを控えて上昇気味に展開していますから相対的に下落する可能性は高く、今回の初動がこの先どう変わるのかも大きなポイントになりそうです。そもそも豪ドル円は8月対ドル、対円で過去20年8割近い確率で下落しているものの今年に限っては全く下落する気配が見られないことから中国の利下げ以前に大きな注目を集めているのが実情です。本来はもっと相場に影響を与えてもしかるべきものがありますが、市場の関心は完全に米国FRBの動きに集中してしまっていることから中国ネタでの相場の動きはかなり限定されているのが実情です。

ドル円にもプラスに働いているがこの先どうなるかは不明

中国の利下げ報道はドル円にもリスクオフとしてとりあえずは作用したようですが、残念ながらジャクソンホールという大きなイベントを控てこの材料だけで大きく上昇することはかなり難しそうな状況です。米国はもとより日本にとっても中国の経済状況は相当意識すべきもののはずですが、相場は上述のとおり完全に米国市場における金融政策だけに集中していることから過去に見られたような中国ショックのようなことがなかなか起きにくくなっている点も気になるところです。同じ問題が起きても市場参加者の関心の方向が異なると大きな問題にならないというのはなかなか判りにくいものがありますが、それだけその時々のテーマというものが重要になることを強く認識させられるところです。

トランプが米国大統領から去って以来、米国と中国との対立構造がはっきり見えなくなったのが現実ですが、中国経済の現状は西側諸国の経済にも非常に大きな影響を及ぼすだけに本来はもっと市場も中国に関心を示すべきものがありますが、なぜか足もとの実態は米欧の中央銀行の金融政策だけに関心が集まり過ぎており、その結果だけで相場が上下動する始末で、ある意味このバイアスのかかり方には相当なリスクさえ感じられる状況です。
中国人民元は先々週1ドル=6.72ちょうど近くまで下げましたが、その後上昇基調が強まり先週末に6.81台後半に上昇。週明けは今回の中国市場オープン前の利下げに元安でスタートし6.8294まで動きとなりましたがその後少し調整しながら6.82台推移とドル高元安圏で推移しています。ここからどうなるかについても注視していきたい時間帯になってきています。中国株については直近の景気鈍化への警戒感後退などから堅調に推移しており、大きな影響は出ておらずむしろ海外勢が買いを入れている状況となっています。