1月12日に発表された12月の米国CPIは前年同月比6.5%上昇し、伸びは昨年11月の7.1%から鈍化し2021年10月以降で最小となりました。
この指標結果を踏まえ市場ではFRBが来月2月の会合で利上げペースをさらに減速させる可能性が高まっており、気の早いアナリストはFRB乗り上げそのものが早期に終わるのではないかという楽観的な見通しさえ繰り出しはじめています。

過去の米国のインフレケースを見ると、一回ピークアウトしてもその後2度3度と波状攻撃のように襲ってくるのが典型的な形で、今回明らかにピークアウトが示現してもそれで終わるとは限らず、利上げを止めても利下げに至るまでにはまだ相当な時間がかかるといった見方も継続中の状況です。
そんな中で今年の夏にはFRBがQR5を再開することになるのではないかといった驚きの予測を持ち出してくるアナリストも登場し、注目を浴びています。

クレディ・スイス・グループのポジャール氏はFRB・QE再開予測

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クレディ・スイス・グループのアナリストであるゾルタン・ポジャール氏は年明け1月6日付けの顧客向けレポートで、今年夏に米金融当局が資産購入を再開すると予想をして話題となっています。
同氏の分析によれば、大きくその規模が拡大を遂げた米国債市場はウクライナ戦争や中露への米国の厳しい締め付けの結果、もはやこれらの国は米国債の買い手市場から撤退しており、最大の買い手となっている日本でさえもその額は減少中で外貨準備のために米債購入は常態的に継続するような状況ではないことから、よほど米債の価格が下がったところでない限り米系のファンドも買い向かう状況ではないと見ているようです。
米国内の銀行もその資金が細る中で、米国債の購入ではなく調達市場に向かう公算が高いとしています。

さらに日本の金融機関や機関投資家が2022年に深刻な打撃を受けたように、為替ヘッジ付きで米国債を買っていた向きはコスト上昇で既に米国債買いに手を出せなくなっており、市場を見渡してもFRBがQTをやっている中ではほとんど誰も米国債を買わないというのが現実の相場状況となってしまっています。

こうした事態からさらに株式市場やクレジット、新興国市場の売りが示現しFRBは結果的に昨年6月からのQT・バランスシート縮小を中止せざるをえなくなり、さらに市場全体を支えるためにまたしても米国債購入を再開することに追い込まれ結果的にQE5が現実のものとなるとポジャール氏は予測しています。
ただし次に到来するFRBのQEは低金利下で行われた過去14年あまりのリスク資産下支えのためのものとは大きく異なり、米国債市場を買い支えるために行われるものであることから、リスク資産押し上げの効果を期待するのには無理があるとも指摘をしています。

ここから夏までにQE再開という見通しは相当驚かされますが、米国債を誰も買わないからFRBが買い支えざるを得なくなるというのはかなり納得のいく予想にも見えます。

モルガンスタンレーの超弱気アナリストは金融危機以降で最大の株価下落率を予測

市場では多くの参加者が米国のインフレが終わってFRBが利下げに踏み切ればそのタイミングが株価上昇の最高の押し目買いの絶好のチャンスと考えているようですが、モルガンスタンレーのストラテジストらはインフレ後のリセッションの到来により米国株は悲観論者の多くが想定する以上の大きな下げに見舞われることを予測しはじめています。

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特に市場では超弱気派として有名なマイケル・ウィルソン氏は経済成長見通しが全般的に悲観されている一方で、企業の利益見通しは依然として高過ぎ、株式のリスクプレミアムは金融危機直前以来の低さだと指摘しており、リセッションの拡大によりS&P500は現水準より約22%低い3000前後で底打ちする可能性があると予測しています。
足もとの相場では米株の底打ちは一旦終了したかのように見られていますが、下落はここから本番を迎えるといった悲観論となっています。

Data Bloomberg

足もとの相場のように複雑な材料が市場に広がっている状況下では楽観論、悲観論のどれがもっともワークすることになるのかは、リアルな市場が動いてみないことには判断できないというのが正直なところです。
しかしこの2つのアナリスト予想に見られるように、たとえFRBがQEを再開しても米国債の買いを支えるだけ、さらに米株はここから22%も下落するということになれば為替でのドル円も昨年のような激しいトレンドをもった上昇が再来する可能性はかなり低そうで、むしろ日銀の政策変更の動きから想定外のドル安円高が示現することのほうに備える必要がありそうです。

金融相場の取引は常に難しさが伴いますが、今年に関してはより一層その難しさを乗り越えてトレードしていくことが求められることになりそうで、特に先行きの見立てはより柔軟に対応できるような備えが重要になってきています。