フランスのマクロン仏統領は4月5日から3日間の予定で中国を公式訪問し、同時に欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長も訪中を終えました。
今回の訪中の理由は、ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて習近平国家主席と協力を求めるためだと報道されています。
欧州と中国は人権問題などで関係が悪化してきたものの、中国を切り離すことができない欧州は「脱リスク」という戦略を掲げており、中国との経済関係を維持しつつ、政治的なリスクを回避することを目指すことが目的でマクロンにフォンデアライエンが同行した形になりました。
両者は事前に米国と電話で協議したようですが、習近平と会談したマクロンはその後結構驚くべき発言をして欧州圏の国々の首相から大きな批判を受けているようです。
マクロン氏は滞在中に習近平国家主席と会談して今後の仏中関係を協議し、協力を深め、世界と地域の重要問題について意見を交換したといいます。
同じ時期にEUのフォンデアライエン委員長も同時に訪中したということで、これはEU全体の動きなのかという見方が強まりましたが、習近平との三者会談も行われたもののマクロンを歓迎する式典にはフォンデアライエンだけが呼ばれないというマクロンとの対応が異なる事態も発生したようで、フランスに対する中国の向き合い方はEU全体とはかなり異なるものであることが見え始めています。
会談後のマクロン発言がEU圏、米国で物議を醸す事態に
マクロン大統領は9日発表の声明で、欧州は台湾を巡る危機を加速させることに関心はなく、米中の双方から独立した戦略を追求すべきだとの考えをしました。
訪中直後の声明で実際にマクロンは、最悪の事態は欧州がこの話題(台湾問題)で追従者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだと語っていることが欧州メディアの報道で明らかになっています。
またマクロンは、欧州は米ドルへの依存度を下げ「戦略的自律性」を求めるべきとも発言しており、脱ドル化を加速させることを示唆するような内容に米国の当局者も苛立ちを隠せなくなってきているようです。
おりしも中国はグローバルサウスの広範な国々との外交でドルを外した人民元主体の貿易を加速させようとしており、マクロン発言はそれをエンドースするかのような内容になっていることが注目されます。
新興国のトップが中国寄りの発言をしたり人民元ベースの取引を開始すると言うのは非常によく目にしますが、EUの主要国であるフランスの大統領がこうした発言をするというのは異例であり、訪中の外交辞令として発した内容としてはかなり行き過ぎ感が否めません。
NATOの加盟国は増加中だが既存加盟国には米国への苛立ちも
昨年ロシアが突然侵攻したことからはじまったウクライナ戦争はすでに1年2か月を経過しても終わりが見えません。
この間NATOへの加盟国も増えて欧州圏は結束してロシアと対峙しているように見えますが、結果的に戦争部分では米国にいいように儲けられ、欧州はエネルギー不足や食料不足に見舞われる始末で、米国を利するだけの状況に我慢できないとする市民も増えています。
フランスも同様な状況であり、今回のマクロンの発言はEUの政策にも大きな影響を与える可能性がでてきています。
政治的な部分はかなり複雑なものがありますが、EUの中心国であるフランスが脱ドル化を鮮明に口にしはじめたのは相当な驚きで、今後ユーロと人民元を主体とした貿易が増えてくることになればドルの基軸通貨としての地位にも相当な影響を与えることが予想されます。
本邦のメディアだけ見ていると米国に寄り添うことが正しいこととして報道されていますが、中国が影で暗躍する中世界は必ずしも米国中心の動きを望まなくなっていることが窺い知れるところとなってきています。
ここからフランスが具体的な行動に移すことになるのか、なによりEU圏が連動してそうした動きにシフトすることになるのかも為替視点で見ると大きな関心事となり引き続き推移を見守りたいところです。