今年3月突然米国イエレン財務大臣が発言し始めた米国の債務上限問題ですが、年中行事として高を括っている市場の反応は皆無で、そろそろ6月の債務上限達成のXデーが一段と近づいています。
ウォール街も金融市場も議会が承認さえすれば決着がつく問題としてほとんどそのリスクを織り込むような動きにはなっていませんが、完全に政治的な駆け引きの材料に使われるようになったこの債務上限の議会での承認は間違うととんでもない問題を引き起こしかねず、引き続きまさかの事態に備える必要がありそうです。

2011年の議会での債務上限の揉め事が最大のベンチマークだが事態は更に悪化

この債務上限を議会が承認しないと実施できないという仕組みは米国とデンマークでしか実施されていないというかなりレアな状況ですが、米国ではここ20年あまりをみてもすでに毎年起きる年中行事の正確を帯び始めています。
中でも議会が揉めに揉めたのは2011年のケースで、当時は誰もが技術的な問題で簡単に解決できると認識し、実際そのようになりました。

しかし2023年の今年はさらに悪化する可能性を秘めていると指摘するアナリストも増えています。
2011年当時の米国政府の債務残高はGDPの100%未満であり、政策金利は今より遥かに低いところに位置していました。
債務を返済するための推定年間支払い額は、年間4500億ドル未満でしたがそれでも当時は多額と指摘されていたものです。
しかし足元では米国の債務はGDPの120%を超えており、さらに重要なことにその債務を返済するための推定年間負担額は今年の3月時点で実に過去の支払いから40%も増加して8000億ドルに達しているといいます。
正直なところ上限を議会で承認するかどうかを議論している場合ではないところに陥っているというわけです。

Data Zerohedge

しかもそのコストはさらに上昇していることから年末には1兆ドルを超えるという見通しさえも飛び出しています。
こうなると米国は自前で税収などからこの多額の借金を返済することは既に不可能で、借金を借金で返すという雪だるま方式の財政が延々と繰り広げられている状況です。
実は議会の承認を得る得ないに関わらず米国はもう債務を増やしていく以外生き残る道がないのが実情となっていることが見えてきます。

債務上限から政府がデフォルトになると起こることとは

この債務上限の変更が議会で認められなくなると米国は新たな国債を一切発行できなくなります。
そうでなくてもほとんどの国の予算は国債発行でまかなっているので、国債発行が止まれば国の運営は致命的となり公務員の給料から社会保障費、その他の広範な各種支払いに至るまで一瞬にして実行できなくなってしまいます。
支払いの遅延はその後の承認でなんとかなりますが、デフォルトにより米国債の格付けが下落すると民間の債券の格付けにも影響を与えることになるため、その後の影響は測りしていないものになることが予想されるところです。

なにより心配しなくてはならないのは国民生活への深刻な影響で、そうでなくてもFRBが積極的に政策金利をあげている最中に起きる悲劇なので米国政府がデフォルトすれば住宅ローンからクレジットカードローン、自動車ローンに至るまですべてのローン金利が上昇することになり、経済に与える影響も2011年時の事態を遥かに超える相当危ないものになります。
当然株価の下落も顕著なものになり、2011年の上限問題の対立時にはあっという間にS&P500が17%の下落を喫するという不甲斐ない事態を引き起こしています。
実際に米国がデフォルトすれば2008年のリーマンショックよりもその影響が大きなものになるという悲観的な見方も飛びだしています。

ウォール街はこの年中行事と化した債務上限問題にはほとんど関心をもっておらず、当然リスクも全く織り込んでいません。
しかし政治的な駆け引きの道具として使われるようになったこの問題は、最後の最後までもめてしまうと本当に取り返しのつかない状況に突入することが考えられるようになってきました。
経済危機が訪れてもその直前段階では常に大丈夫だとしか口走らなかったイエレン財務長官が、今回真剣にそのリスクを口にするもわからない話ではなくなっているといえます。
6月中の早い段階での債務上限達成と政府のデフォルトというのはすでにすぐそこの話となっていますが、これが決着するかについては引き続き注目していきたい状態が続きます。