日銀は7月28日の金融政策決定会合において金融緩和の持続性を高めることが適当として現状維持を打ち出しましたが、実際にはそれに加えてイールドカーブコントロールの運用を柔軟化することを決定し運用柔軟化は正常化のためではないとしながらも、YCCの上限金利設定は変更しないまま1%までは上限を容認するというかなり判りにくい決定をしています。
イールドカーブコントロールとはその名のとおり一定の金利の枠組みで日銀が制御する政策なので、そもそも0.5%を維持できないのではYCCとは呼べないのではないかという素朴な疑問も生じるところですが、日銀は運用柔軟化としています。
発表当初は現状維持、かつYCCの上限もいじらないと発表されたことからドル円も日経平均も大幅上昇となりました。
しかし午後3時半からの植田総裁会見では長期金利の変動をより市場に委ねると植田総裁は発言し、より市場実態にあった方向にYCCを変化させる意図を明確に示唆したことからドル円はまた大きく下がりだしたものの、同日のNYタイムでは逆に上昇に転じるという驚きの展開となりました。
本邦日銀記者クラブの記者からもYCCの修正については相当な質問が出ましたが、植田総裁は時間を尽くしてすべての質問に応えるといった姿勢はなく打ち切りとなったことから、市場との円滑なコミュニケーションにも大きな問題があるのではないかといった指摘もではじめています。
日銀の決定内容がここまで判りにくいのも珍しいですが、その背後にはかなり複雑な外圧事情が絡んでいることが見えてきます。
米国財務省は日銀が24年末まで緩和継続を強く要請か
このコラムではすでに触れていますが、現在主要国の中銀で金融緩和を続けているのは日本の日銀だけで、これこそが米国を始めとする株式市場に流動性をもたらし株化が上昇していると見る向きが非常に増えているのが現状です。
米国の財務省もそうした見方をかなり強く持っているとされ、2024年11月の大統領選挙が終了するまで株価を崩さない意味でも日本は緩和の巻き戻しや利上げを行わないように相当強く要請を受けているのはどうやら事実のようです。
一部の国内メディアは大規模な金融緩和策の修正を決めたと報じていますが、日銀はあくまでYCC運用の柔軟化と説明しており、YCCの上限金利さえ1%に修正することなく金利上昇を容認するとしています。
緩和終了や修正と言う言葉を一切使わないのにはこうした背景があるからだと考えるとかなり正確に理解できますが、市場はすんなり政策変更の真意を受け取ることができず必要以上に相場が乱高下する事態となってしまいました。
植田総裁はYCC変更は円安対策であることもうっすらと示唆
植田総裁は記者会見の質疑応答の中で長短金利操作の運用を柔軟化した理由の1つとして、為替市場のボラティリティも含めて考えていると明言しており、YCCの修正が円安に対する制御効果を含んでいることを示唆しています。
たしかに昨年の秋の円買い介入のように巨額の資金を投入しなくてもYCCの上限上昇を容認していけば円安に対する抑制効果が発揮されることが期待できそうです。
さすがに為替水準にまで言及することはありませんでしたが、為替市場のことを引き合いに出したのは相当レアな発言だったと言えるでしょう。
YCCの終焉に向けたはじめの一歩という見方も強まっている
植田総裁は今回のYCC運用の柔軟化、実質10年債金利の上限を1%にした政策変更についてしきりに金融政策の正常化に向けた措置ではないと説明していますが、債券市場ではYCC終焉の布石として動きはじめたと見るアナリストも多い状況です。
そもそも2012年までは日銀のホームページ上でも短期金利は制御できても長期金利をコントロールすることは無理とされてきたことを無理やり制御すると言い出したので、どこかでその政策が破綻をきたしたり終わりを迎えるのは時間の問題とする向きも増えています。
この政策変更を受けた市場ではJGBの金利が徐々に上がりはじめてすでに0.5%は突破していますが、いきなり1%にまで到達するほど激しい売り浴びせの動きにはなっていません。
またインフレがさらに進むようであれば完全にYCCを放棄せざるを得なくなるという見方も出てきているので、やはりここからは実際の国内のインフレがどう進行するかが大きなポイントになりそうです。
為替市場に関していえばここからは米10年債金利だけでなく、JGB10年債の金利も常にチェックしていく習慣をつける必要がありそうです。
本来植田総裁は真っ先にYCCを撤廃したいのかも知れませんが、前任者の政策を継続することで完全に外部から総裁に指名されているため前提条件となるこの約束を順守せざるをえないはずで、バイデンに言われればなんでもいうことを聞くという岸田首相から任命されている都合上、米国からの要望にも応えざるをえない厳しい状況に陥っていそうで、ここからの政策運営ではさらに苦労する局面もありそうです。
また今回一連の発表から会見までを見ていると総裁の市場との確実な対話にも結構大きな問題があることが垣間見られました。
市場との確実な対話に失敗すれば想像以上の相場の混乱を引き起こしかねないので、そうした部分にもより綿密な配慮と対応をお願いしたいところです。
相場ははやくもこの内容を折り込んだうえでドル高に回帰しようとしていますが、果たして8月相場はそれを基調にして動いていくのかどうかにも大きな関心が集まり始めています。