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福島第一原子力発電所が2011年の東日本大震災で原子炉のメルトダウンを起こしてから12年半となる8月24日、原子炉の冷却に使われた放射性物質を含む汚染水がALPSによる処理を経て希釈されながら太平洋に放出されはじめました。
本件に関しては国際原子力機関(IAEA)があらかじめ処理水が人間や環境に与える影響は「無視できる程度」とのお墨付きを下して放出を承認している上、お得意の抱きつき外交で岸田首相が米国の事前承認を得たことから米国への従属感が高まる韓国もこの件については大きな声を上げなくなり、他のG7諸国も大きな懸念を示さないまま粛々と作業が進んでいます。

この12年間、なかなか本当のことを言わない東京電力と、丁寧に説明するなどといいながらいざとなると強引に事を進める岸田政権のコラボによるやり口は必ずしも全ての国際社会からの信認を得られていないのも事実で、そうでなくても関係が上手くいっていな中国はこの海洋放出に大反対となり、日本からの魚介類の輸入を全面禁止、さらに中国国民も反応がエスカレートし日本製品の不買運動や訪日観光を取りやめるといった動きが顕在化しつつあります。
環太平洋では中国が最大の消費国なのでこれが最も大きな痛手となりそうですが、すでにパプアニューギニアなど太平洋に隣接する国からも懸念の声が上がっているので今後その流れがさらに加速することもありそうで、果たしてこの問題が経済のレベルから金融市場に影響を与えることになるのかどうかが大きなポイントとなってきています。

大きな疑問点はALPSで本当に放射性核種をとり切れているのかという点

東電は福島第一発電所の事故後、東電はALPSと呼ばれる多核種除去設備の導入を決めて今回の海洋放出にもこれを使っていますが、現状の技術では除去が困難なトリチウムを除く62の放射性核種を規制値以下に減らすことが可能で、問題はトリチウムだけのように見えているものの、汚染水自体はその成分がものによって激しく異なっており、とくに人体への毒性が強い放射性ストロンチウムを本当に希釈して海洋投棄出来るレベルまで除去できているのかが今後の継続的焦点になりそうです。
人類史上原発の重大事故は米国のスリーマイル島、ウクライナのチェルノブイリと本邦の福島第一原発の3件ですが、一定の処理をしているとはいえ、原発でできた汚染物質を海洋に放出するというのはある意味前人未到、人類史上初めての行為のため足元の日本政府の説明の仕方が本当に国際社会いから高い信頼を得られるレベルのものなのかどうかには大きな疑問がではじめています。

ひとたび海洋放出で想定外の事態が起きれば金融市場への影響波及も免れない

現状では日本のこの海洋放出の件で日本株が売りこまれたり円売りが加速するといった事態には至っていませんが、今後海洋放出で想定外の事態、つまり放射能汚染が進んでしまうといったことが明らかになった場合には当然金融市場にも影響を及ぼすことになりそうで、過去に同種の事例がないだけに詳細はなんとも言えませんが、少なくとも問題発生当事国として日本売りが加速することは覚悟しておく必要がありそうです。
為替ではリスクオフとなっても本邦が当事国となるので円売りが進むことは十分にありえそうで、個人投資家としては日本政府があらかじめ説明している内容どおりに進むことを祈るしかないのが実情となっています。

8月22日からのBRICS総会でも明らかになりましたが、日本にいると米国に寄り添っていることが安心で国際社会でもしっかりとした座を築くいしずえになっているように思われますが、リアルな国際社会ではすでに米国の影響を受けない集合体が大きな力をもつようになってきており、米国に従属していることが分かる日本のような存在が環境問題といった世界共通のアジェンダレベルでかつてなかったような問題を起こしたときに完全に信頼を失い国際社会から完全に排除されるようなことにならないか、かなり気が気ではないところに差し掛かかっています。
これは金融市場にも重大な影響を及ぼす材料なのでここからの日本政府の動きを引き続き注視していかざるを得ない状況ですが、この種の問題の顕在化で特定国が徹底的に叩かれ金融でも問題になるということはかつてまったく起きたことではないだけに、果たして市場がどこまで反応するのかにも注目が集まるところとなっています。
いずれにしても本邦にとってプラスに働く要素は皆無なので、事態を見守るしか方法がなく実に厄介な時間に突入したことを感じさせられます。