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8月29日イランのライシ大統領がテヘランで会見し、日本を名指しにして米国の経済制裁で本邦国内で凍結されているイランの資産の凍結解除を要求するという思い切った発言を繰り出しています。
イランはあえて米国ではなく、協力した日本に大使凍結されたイランの資金を日本との貿易に使えるようにしてほしいとの具体的な要望を出してきました。
海外メディアの報道では本邦の銀行で凍結されているイランの資産は最大で約30億ドル(約4400億円)で、SWIFTベースで米ドルで送金されるべき金額を米国の要請に応えて凍結したことが見えてきます。

これまで米国の要請で資産凍結を行った国というのは相当数ありますが、まず米国と交渉しないかぎり何も動かないのが現実で、凍結協力国に直接働きかける国というのはほとんどありませんでした。
しかしライシ大統領は日本に対し米国のいいなりになって影響を受けずに独自の判断をしてほしいとかなり踏み込んだ発言をしています。
今なぜこんなことをイランが言い出すのかと怪しむ方も多いと思いますが、今年に入ってからのこの国の国際社会における座の築き方が影響していることはほぼ間違いない状況のようです。

サウジとの国交回復、BRICSへの24年1月正式加盟がイランを強気にさせている

イランは先月24日、来年1月からBRICSに加盟することを正式に許され産油国としてグローバルサウスの中心を担う存在へとアップグレードをはかっています。
またそれに先立つ今年3月には中国の仲介を経て長年の天敵とさえ言われたサウジアラビアとまさかの国交回復を果たしており、中東、西アジアの領域では驚くべき進化を遂げています。
日本とイランは今月NYで国連総会が開催されるタイミングで首脳会談を開催することが決まっていますが、それに合わせて米国の影響を受けずに独自に自国との関係を再構築するようにと言い出したのはかなりの驚きです。

単独の状態ではイスラム系の異端国という扱いでしたが、いまや振りむけばBRICSの国々が支えてくれる存在になっており発言の強気度もこれまでにないものとなっています。
こうなると対米従属だけを外交の基本とする岸田首相が米国の顔色をみながらどう対応するかに注目が集まりつつあります。
単に受け流すのか真摯に対応を考えるかによってはBRICS自体との関係にも相当な影響がでそうで、単なる米国の手先と評価されてしまうとさらにこれからのグローバルサウスと日本との関係にも大きな影響がでるのは必至の状況となっています。

BRICSから出入り禁止となったフランスマクロンは踏んだり蹴ったりの状態

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足元でBRICSへの対応を誤り、アフリカ圏からも明確に排除されてようとしているのがフランスのマクロン大統領です。
マクロンは今年6月あたりから8月南ア開催のBRICS総会にオブザーバーとして出席することを再三要請してきましたが、結果は出入り禁止状態でまったく取り合われることもなく無視されるという憂き目にあっています。
どうしてここまで嫌われているのかはよくわかりませんが、独自に展開している多元的な外交が気に入られていないのは事実のようで、グローバルサウス領域では完全に失敗を喫することとなっているようです。

さらにときを同じくして追い打ちをかけているのが旧フランス植民地のニジェールとガボンで起きたクーデターで、こちらは完全にフランスが排除される動きとなっています。
マクロンはこうした国々の独立に寄与したのはまさにフランスであると発言していますが、これも当事国の大きな反感を買っているようで、アフリカ諸国との外交も大失敗の状態に陥っています。

BRICS加盟国間でローカル通貨を使った決済・送金システムが完成すればさらに大きな問題が顕在化する可能性も

いまのところBRICS共通通貨のローンチまでには数年の時間が必要になりそうですが、既に中国もロシアも自国の決済送金システムをBRICSに持ち込みはじめており、共通通貨の前にローカル通貨でSWIFTを一切利用しないで国際決済や送金ができる可能性が極めて高くなっています。
反米の動きからSWIFTに依存しない独自の決済送金システムが確立すれば米国がペトロダラーの座を失うことになるのは時間の問題になりそうですが、SWIFT経由で実施されてきた海外資産の凍結が回避できる可能性も高まることになり、日本のような資源も食料ももたず、中国経済にも応分の依存をしている国にとってはBRICSとの取引から排除されることはG7との結束を確保するよりも数段大きなリスクに発展することが予想されます。
米国はたとえ今いきなり鎖国しても十分にやっていける資源を国内に保有しているので完全にダメになるとは考えにくいですが、本邦に関しては米国とBRICS+の間に挟まってここからの状況次第では日本円が役立たずのマイノリティ通貨に転落するリスクも高まります。

今回のイランからの本邦への要請は表面的には為替上にまで影響が及ぶものとは認識されていませんが、実はかなり奥の深い問題であることを認識しておく必要がありそうです。
とくに米国のかげに隠れてなんでもバイデンの言うことを聞くという岸田首相の姿勢が力関係の大きく変わる国際社会で完全に否定されることもありえそうで、カネだけバラまけば順風満帆と言う外交姿勢を改めざるをえない時間が迫ってきているようです。