FRBは今年の利上げをほぼ終えようとしており、人によってはすでに終了しているという見方をする向きも増えています。
こうなると市場が気になるのは米経済は雇用を大きく失うことなくインフレ率を低下させるソフトランディングに成功できるかどうかという問題になりますが、楽観的にソフトランディングが実現すると予測するアナリストが多い中で、そうはならないと予測する厳しいアナリストも増えており、実際は一体どちらなのかということがここから大きな議論になりそうな状況となってきています。
相場の先行き予測なので見立てが二分するのは仕方ありませんが、ここ30年あまりの相場の結果を見ると楽観論が決してワークしていないという事実も気になるところとなってきています。

米国の雇用状況がソフトランディングを示唆しているとするアナリストが増加

直近の米国の雇用統計では緩やかに増加する雇用者数、小幅に上昇する失業率、下向きの曲線を描く平均時給、はっきりと上昇した労働参加率を示現しており、これこそがここからのソフトランディングを示唆しているとするアナリストが多く存在します。
確かにこうした指標結果が正しいものであるのなら期待できる状況ですが、すでにこのコラムでもご紹介しているとおり米国労働省は年初からの雇用統計数字を翌月の改定値公表時に下落させており、実際には速報値で示されたように良好に推移していないことを明かにし始めています。
たしかに労働参加率が非常に高まっているのは厳然たる事実ではありますが、フルタイムワーカーが職を失ってから新たな職に就ける可能性はかなり低くなっており、実際の米国経済はこうした指標数値よりはるかに悪化していると見る向きも増えているのが実情です。

インフレが過去10年のような低水準には戻らないという悲観論も台頭

Photo Bloomberg

米国経済の先行きについては当然のことながら悲観的な見通しを持ち出してくる向きも多くなっています。
米資産運用会社グランサム・マヨ・バン・オッタールー通称GMOの共同創業者であるジェレミー・グランサム氏は市場の先行きをよく語る人物としても有名ですが、同氏によればFRBが行った短期間での利上げ、その結果の金利上昇は確実に米国経済に打撃を与え、リセッション回帰にはつながらないというかなり悲観的な見通しを口にしています。
しかもここからのインフレは過去10年の低いものに戻ることはなく当分高めのインフレの時期を過ごすことになることも指摘しており、これが結果的に資産価格を押し下げることにつながると警告をしています。

FRBは依然として2%のインフレを目標にしていますが、現実にはそこまで低下しないのではないかといった予測が台頭してきています。
米国では2000年のITバブル崩壊時、さらに2007年サブプライムローンの問題が顕在化した際にもやがてソフトランディングになるといった楽観論が飛び交ったのは記憶に新しいところですが、実際は激しいリセッションに見舞われFRBが慌てて利下げに踏み切ったあとに株式市場が暴落する事態に追い込まれており、今回もFRBが利上げを停止しその後利下げに転じる時間帯にかなり相場の大幅下落リスクが高まると考えるアナリストが増えている状況です。

投資家としてはハードランディングに備えるべき状況に

市場の先行きを楽観視するというのは投資家にとっては至極簡単な行為ではありますが、実際にそうならなかった場合の相場実態との差はすさまじいものになり、とくに大幅な下落軌道にあるのにある程度の下落をもって底値や押し目と考えて買い向かってしまうとその後さらに相場の底が待っていて、大損をして市場から撤退を余儀なくされるという最悪な状況に直面することも多くなるのが現実です。
足元の相場で中心的存在となっているミレニアル世代はすでに2008年のリーマン職の大暴落も経験しておらず、2000年のITバブルの崩壊などはさらに知る由もないという状況で、市場参加者の多くが相場の下落を押し目買いのチャンスとして捉えている点も大きなリスクとなりつつあります。

来年11月に米国では大統領選挙が行われるのでそれまでは財務省もFRBも総動員で相場を崩さない努力をすることになると思いますが、それでリセッションを本当に回避できるかどうかには大きな疑問も残るところとなっています。
短期のトレーディングベースで売ったり買ったりするのは大きな問題にはなりませんが、長期投資はこうした時期には確実に避けるべきで、それまでに保有ポジションがある場合にはファーストアウトということで早めに相場から出て様子を見るといった用心深さも必要になりそうです。
米国市場はこのハードランディングかソフトランディングかという問題を契機に市場悪化の可能性を精査する時間帯に入ることになりそうで、より慎重なトレードを行う必要がでてきているようです。