Photo Jonathan St-Pierre

9.11といえば、今から10年~12年前であれば、米国で起きた同時多発テロのことを殆どの米国民がリアルに経験し、当時の状況を饒舌に語ることができました。
これは、世界貿易センタービルに隣接したウォール街でも同様の状況で、実際に被害にあった金融関係者も多く、株式や為替など、金融市場の大混乱を実際に経験した人々が殆どでした。
世界貿易センタービルで一瞬にして2,763人の命が奪われ、金融機関で重責を担っていた大勢のファンドマネージャーなどが一瞬で消え去ったわけですから、同時多発テロは市場に大きな衝撃を与えることとなります。

この事件は、アメリカ史上最悪のテロ事件で、10年程度経過してもまったく衝撃が和らぐことはありませんでした。
しかし、22年も経過すると、人の出入りの激しい金融市場では、当時のリアルな状況を語れる者は激減し、その後の相場、とりわけ為替市場がどうなったのかを正確に知る人は殆どいなくなりました。
現在のウォール街を取り仕切る金融機関のマネージャーは、ほとんどがミレニアル世代で、当時のリアルな記憶がない世代です。

事件から22年が経過したこのタイミングで、当時の相場がどのような状況になったのかを改めて検証してみます。

米株は劇的に下落したが為替はそれほど大きな動きにならなかった

2001年9月11日のテロ攻撃は、株式市場に大きな影響を与えたことはいうまでもありません。
このテロは、当時の株式市場の価値を1.4兆ドル減少させるという急激な下落を引き起こしました。
攻撃後の最初の週には、S&P 500が14%以上下落し、金と石油が急騰しました。
ニューヨーク証券取引所とナスダックは、攻撃の混乱を予想して、ほぼ一週間後にあたる9月17日まで取引を停止し、大恐慌以来の最長のシャットダウンとなりました。
それもそのはずで、多くの取引、ブローカー、および他の金融会社は、突然消失してしまった世界貿易センターにオフィスを構えていたこともあり、タワーの崩壊は取引者も一緒に消滅させてしまったので、売買自体が機能しなくなるという事態でした。

17日事件初の取引では、ダウが684ポイント(7.1%)下落し、当時の1日の取引で最大の損失を記録することになります。
この週の取引終了時には、ダウ平均が14%以上下落し、S&P 500指数が11.6%下落し、ナスダックが16%下落となっています。
下落の金額幅は、足元の相場が高いので大したことではないように見えますが、下落率は相当なものだったことがわかります。
こうなると、為替市場も大混乱になったのではないかと想像される方が多いかも知れませんが、為替は月曜日に始まると、その週の土曜日の朝まで止まることはなく、実際の相場は意外な展開となりました。

9月11日、NYタイムが始まる直前のドル円は120円台で推移していましたが、テロ発生を受けて118円~122円で乱高下を開始し、9月20日に115.83円までドル安が進むこととなりました。
有事のドル買いが起きると想定した市場参加者が多かったようですが、実際には米国が攻撃を受けたので、そうした動きは見られませんでした。
しかし、当時のブッシュ政権は、国民に団結を訴え、今にも戦争をしかねない状況を作り出したこともあり、同年年末に向けてドル買いが進み、年明けには135円に到達するようなドル高を見せています。
このあたりの動きは、実際に相場が経過してみないと判らないもので、株式市場と違い、米国内でテロが起きてもドルは急激に売られませんでした。
テロの規模、発生場所、その後戦争につながるか、といった細かい条件が変われば、このような動きにはならないことも予想されます。
しかし、いずれにしても事前の思い込みとは異なる動きになる可能性があることは意識しておきたいところです。

相場の歴史的事実は想像するのではなく結果を見ることが重要

今回は、2001年の9月11日のテロ後の為替相場の動きに特化してご紹介しました。
米国金融市場を中心を担っているミレニアル世代は、同時多発テロが起きる1年前のITバブルの崩壊で相場がどう動いたか、2008年のリーマンショックの大暴落がどうだったか知らない人が大多数です。
相場の暴落をリアルに経験していないから問題ということではありませんが、経験していないために、間違った判断を下してしまう市場参加者がいるかも知れません。
それを避けるためには、想像するより、事実を確認することが重要で、その他の暴落事案についても、事実関係を正確に理解することが、他者を出し抜く大きなチャンスです。