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3日イラン南東部で、革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官の4年目の命日に行われた追悼式典中に、2回の爆発が発生し少なくとも91名が死亡するという痛ましい事件が発生しました。

ソレイマニ氏は、長年最高指導者に次ぐ権力を持つ人物とされており、イラン国内ではイスラム国(IS)を退治したことで英雄と崇められてきた人物です。

ソレイマニ氏は2020年1月3日、当時の米トランプ大統領がイラク・バグダッドに到着した際、米軍の空爆により殺害されたことから、アメリカとの関係は対立状態となっていました。

そんな中で起きた今回の事件は、イラン国民に米国とイスラエルによるテロだという強い疑念を植え付けるものとなってしまいました。

その後、イスラム国(IS)が犯行声明を行い爆破犯の名前を公表するに至っていますが、それでもイラン側のアメリカとイランに対する敵意は収まらず、今後の状況次第ではホルムズ海峡封鎖という対抗措置をとる可能性もある状況です。

イランは、ロシアとの関係が緊密化して以降、比較的落ち着いた状態を維持していましたが、米国とイスラエル側がイランに攻撃を仕掛けるようなことがあれば、大規模な衝突に発展するリスクが高まります。

ホルムズ海峡が封鎖されれば西側諸国の経済に大打撃

昨年末イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海で商船への攻撃を行ったことから、海運大手はヨーロッパへの物資輸送ルートをアフリカ回りに変更しています。

それにより喜望峰経由の輸送は7,000キロ以上の余分な航行を余儀なくされるため、欧州の輸出入に大きな打撃を与えている状況です。

さらに厄介なのは、BRICSプラスやグローバルサウスの国々が対イスラエルという視点で、このフーシ派を強く支持していることです。

米国のメディアだけを見ていると、単純にイエメンの武装組織による小規模な犯行と誤解されがちですが、反米を標榜する世界の国々がフーシ派の動きを肯定している点が、過去に発生した湾岸戦争と大きく異なります。

そこに、またしてもホルムズ海峡が封鎖されるとなると、アラブ諸国からの原油輸出が完全に途絶えることになるため、イスラエルとハマスの衝突以降、一旦は落ち着きを見せた原油価格が再度上昇する可能性も高まり始めています。

 

 

アラビア半島を取り巻く海峡の地図を見てわかる通り、スエズ運河は地中海と紅海を結ぶ貴重なルートとなっており、その東側にあるホルムズ海峡はペルシャ湾とアラビア湾を結ぶ大きなゲートウェイとなっています。

そのため、これらの海峡が完全封鎖となれば、西側諸国の経済に与えるダメージは計り知れません。

 

実際には、ホルムズ海峡はまだ封鎖された訳ではありませんが、一つだけはっきりしていることは、金融市場がこのような地政学リスクをまったく織り込んでいないことです。

ここから原油価格が跳ね上がれば、米国で一段落したインフレが再燃することは間違いないため、リスクを全く織り込もうとしない状況に危機感を抱かざるを得ない状況です。

600兆ドルを超える原油市場の崩壊が最大の懸念

中東からの原油が供給停止となれば、世界的に大きな問題となることは言うまでもありませんが、重ねて金融市場の大混乱も避けられないことが予想されます。

原油市場は、WTI先物を見て判断することがほとんどですが、コモディティとしての原油はそれだけにとどまらず、複雑なデリバティブ(レバレッジをかけた取引)が存在しており、その規模は600兆ドルを超えるとさえ言われています。

原油の需給が完全に停止すること以上に、世界的なデリバティブ市場の崩壊が金融市場に想定外の激震をもたらすことをあらかじめ意識しておく必要がありそうです。

 

中東情勢は、その歴史と現状をつぶさに理解することは非常に難しく、米系メディアが報じる内容をなぞって理解できたと錯覚されがちです。

しかし実際には、BRICSプラスをはじめとする脱米国世界からは、全く異なる風景が展開している可能性があることを、投資家としては理解しておく必要があります。

2024年は、年初から想定外の事態に見舞われており、昨年にも増して先行きを見通すことが難しい状況ですが、中東の地政学リスクについては事前に理解を深め、いざという時に慌てずに対応できるよう対策しておくことが重要になりそうです。