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米国のイエレン財務長官は5月4日にアトランティック誌のインタビュー動画の中で巨額の財政出動に伴い米経済が過熱しないように幾分かの利上げが必要となるかもしれないと述べていたことがわかり、ちょうどNYタイムの場中の報道でもあったことから株式市場は下落モードに拍車がかかりドル円は一瞬109.400円台に上昇する場面が見られました。

ただ政府の追加支出は経済規模に比べれば小さいことを強調しインフレ抑止が必要でも非常に穏やかな金利上昇になるといった発言をしています。

財政支出規模が経済規模に比べて小さいというのも詭弁に聞こえますが、これまでインフレのリスクは極めて小さいものになると力説してきたイエレン財務長官だけにインフレに対する考えを変えたという見方も広がりはじめており、市場には様々な憶測が渦巻き始めています。

大きな政府でインフレが起きる可能性を市場は十分意識している

もともとトランプ政権でも相当な金融緩和措置と財政出動をした上にスタートしたバイデン政権は民主党のお家芸である大きな政府を猛然と目指し始めており、新型コロナの追加経済対策で190億ドル、さらにインフラ投資等で今後225億ドルもの資金の投入をはかろうとしているわけですから、過去のニューディール政策や第二次世界大戦時の巨額の財政出動をはるかに上回る状態に陥っていることは市場のだれもが既に認識している状況です。

累積的な連邦債務はすでに日本円にして3000兆円を超えるレベルになっていますからここからインフレが到来するかもしれないと誰もが意識しているのが現実で、イエレン財務長官はこうした見立てを認めたともとれる発言になっていることが注目されます。

そもそもFRBの管轄領域である金利に財務長官が発言する真意とは

もともと金利のコントロールはFRBパウエル議長の専権事項であるだけに、なぜこのタイミングでイエレンが踏み込んで金利の上昇を促すような発言をしたのかは市場における大きな疑問となっています。

一般的な経済的な見立てとして莫大な財政出動を実施すればそれはインフレ懸念が起きるのは当たり前という話しとして持ち出してきている可能性もありますが、あえてインフレになれば利上げもありうることを予め予告しているという見方もあり、市場の反応は複雑です。

緩やかか急激かは実際にインフレになってみないと判らないことですが、利上げを口にすれば株式市場が嫌気して相場が大きく下がるリスクに直面するというのは十分に予見することのできる話しですから、果たしてその真意はどこにあるのかは当分市場で詮索されそうな状況で、今後記者会見などでさらにこの見通しをエスカレートさせるような発言が飛び出せば株と為替にさらに大きな影響を与えるリスクが高まりそうです。

相場の下落で慌てて釈明したの非常に不可解

イエレン財務長官はこの報道がでて株価の下落に拍車がかかった段階で、慌ててこの発言は別に金利上昇を予測しているわけでも推奨しているわけでもないと釈明し自ら火消しを行なっています。

しかし本当に影響を考えずにただ現象的に口走っただけであれば随分と軽率であり、FRBの政策を侵害しかねない問題発言とみなされても仕方ないだけに、ここからのイエレン発言に大きな注目が集まるところです。

この慌てぶりを見ますとあくまで一般的な話しとして引き合いに出しただけで、利上げが近づいていることを告知するようなつもりはなかったようにも思われます。

イエレン財務長官はFRB議長当時、とにかく株価が下落するのを恐れてなかなか利上げができなかったという驚くほど小心者として知られていますが、財務長官に就任して性格が変わったのか、あるいは単なる失言なのかを見極める時間が続きそうです。