世界的な通貨取引でみますとユーロドル、ドル円についでボリュームが多いのがポンドドルで、ほぼ全体の6%から9%程度で推移しています。
ところが国内のFX市場で見ますと圧倒的なシェアをほこるドル円についで12%程度の取引シェアを誇るのがポンド円で、世界と本邦とではかなり状況が異なることが見えてきます。

他の通貨ペアに比べますとボラティリティが大きく利益機会にあずかることが多いのがどうやら人気の秘密なようですが、直近の相場では悠長なことを言っていられない状況が示現しはじめています。

ポンドの発行国・英国ではインフレの進行が中央銀行であるイングランド銀行の想定を超え始めており、これが起因してポンドの凄まじい下落に直面するリスクが高まりつつあります。
ポンドというと90年代初頭にイングランド銀行がジョージソロスとの戦いに負けて大幅下落したというかなり痛い歴史もあるだけに、ポンドの下落というのは長く為替の世界に携わるものにとっては非常に危険を感じるところです。

Data Trading Economics

上のチャートは1990年代からの英国のインフレ率の推移を示したものですが、御覧のとおり今世紀に入ってからは最大のインフレ率で、ソロスと揉めていたころの英国の高インフレの状況を完全に凌駕していることがわかります。
英政府統計局が5月18日に発表したCPI・消費者物価指数は2015年を100とした指数で120ポイントとなり、前年同月比9%上昇したと発表しました。
エネルギー価格の高騰を背景に、3月の7%から加速し、1982年3月以降で最高を記録、しかもこれでピークアウトとはならないリスクも高まりつつあります。
とくにロシア起因で上昇が止まらないエネルギー系は深刻で、住宅・水道・電気・ガス・その他燃料は19.2%上昇しています。

メディアでは米国や欧州のCPIに注目が集まっていますが、その間隙を縫う形で英国のインフレが凄まじく加速している点にはかなりの注意が必要です。

バンク・オブ・アメリカはポンドリスクをヘッジする必要を強調

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらは英国ポンドが新興国通貨において見られるような苦境に直面しており、投資家はポンドの「実在的」危機をヘッジする必要があると強調しはじめています。
さすがに新興国並のリスクとは行かないものの、英国の経常赤字や、北アイルランドを巡るEUとの関係悪化、さらに、英中銀の信頼性についての疑念から場合によっては最悪の状況を生じさせる危険性を指摘しています。
現状ではイングランド銀行の利上げはあきらかに遅きに失しており、これもポンドリスクを高める大きな原因になっていると指摘しています。

英国の利上げは最終的に2.5%超へ拡大か

市場ではイングランド銀行は最終的に政策金利を2%にすると予測していましたが、ゴールドマンサックスなどのアナリストはすでに2.5%に達するという予測を発表しており、2023年2月までの各会合で0.25ポイントの利上げを継続を予想しはじめています。
実はこれでもかなり遅い対応である可能性があり、ポンドはその間にさらに大きく下落することも想定しておく必要がありそうです。

ポンド円では3月の安値をさらに下抜ける可能性が注意

Data Tradingview

ポンド円の場合ポンドドルほど下落が鮮明にならない可能性もありますが、それでも3月には円安が相当進んだ状況下で151円に接近する場面もあったため楽観視は禁物で、ここからはさらなる下落を十分に警戒しなくてはならない時間帯に入ってきているようです。
確かに為替はドルやユーロとの相対的な比較でその差が生じるので、危険視したほど下落しないということも十分にありえますが、ポンド円という架空通貨は実需がないので、下げ始めるととめどもないことになりかねないだけに、想定をはるかに超えた下落につながることもありえます。
ここからは相当慎重に対応する必要がありそうです。