金融市場は株も為替もロシアがウクライナに侵攻するかどうかの一点で上下動を繰り返していますが、実はその裏で大きな問題になろうとしているのがFRBの新メンバーに対する議会での承認問題です。
既にパウエル議長は承認されているので本来は副議長や理事の承認で揉めることはないのですが、今回共和党はFRB幹部5人の指名承認の採決の場に参加せず、定足数未達とすることで採決を阻止しています。
FRBの業務を止めるわけにも行かないのでパウエル議長は暫定議長として職を遂行していますが、2名の候補者は大きな批判の対象にさらされています。
問題はラスキン副議長候補とクック理事候補
直近の上院銀行委員会で問題となっているのはサラ・ブルーム・ラスキン氏の副議長指名とリサ・クック氏の理事指名の問題で、両名ともにFRBが直面する大きな課題への解決に貢献しない人物であるとして共和党から厳しく指摘を受けており、ここからも簡単には承認されない状況が続いています。
ラスキン副議長候補はオバマ政権の財務副長官も務めており金融業界とは何の関係もないというほどの人ではありません。
しかしこの人物はFRBが化石燃料からグリーンエネルギーに資本の振り向け先を変えさせるべきだと要求し続けている存在で、金融監督担当副議長に任命されれば間違いなく化石燃料分野への資金の流れを抑制することになり、そうでなくてもインフレの一因となっているグリーン政策はさらに激しいグリーンフレーションを引き起こしかねない状況に陥りかねず、FRBが目下懸命に対処しているインフレファイトの政策と完全に相反する動きになることが危惧されています。
またこのラスキン候補は関わりのあったフィンテック企業に便宜を図ったことも問題視されています。
これはラスキン氏が以前役員を務めていたフィンテック企業が金融会社と認定されるようにカンザスシティー地区連邦銀行に口利きしたとされる問題です。
このフィンテック企業であるリザーブ・トラストはカンザスシティー地区連銀に口座開設の申請を却下されたものの、ラスキン氏がその直後にジョージ・カンザスシティー地区連銀総裁に電話をかけ、結果的に同築連銀は方針を変更し18年に口座開設を認めたというもので、かなり生々しい内容が含まれている点が注目されます。
もう一人共和党から問題視されているミシガン州立大学のリサ・クック教授は、大統領経済諮問委員会・CEAのシニアエコノミストを務め政権発足にも参画していたので相当バイデンに近しい人物です。
しかし経済学者とはいうものの、専門は構造的な人種差別が全ての経済問題の根源だと考えるかなりバイアスのかかった発想の持ち主で、しかも金融政策の専門性は皆無となり、なぜこのFRBの一大事にこうした人材を理事に投入しなくてはならないのか重大な懸念を共和党が示すのは理解できるものがあります。
世界的にはグリーン問題もダイバーシティの問題も重要ではありますが、今FRBがそうした材料を重視して直面する重大な課題を乗り切っていけるのかどいうかは金融市場のみならず米国民からも疑われており、議会の数だけで民主党があっさり乗り切れない可能性も高まっています。
長く金融業界に従事してきた人たちはとかく中欧銀行の存在を神格化し、政権や政治とは離れたところで正しい政策決定をするものと認識してきたようですが、ここのところの各国中銀の人選とその政策を見ていますと必ずしもベストプラクティスを持ち出しているとは思えず、とくに政権から相当な圧力や影響を受けていることがすでに透けて見え始めています。
トルコのエルドアン大統領が自らの金融政策方針に従わない中欧銀行幹部を頻繁にクビにしている姿は異様な世界として金融市場で見られてきていますが、実はFRBといってもそれとあまり変わらない政権意向に基づく組織であることがバレ始めています。
こうしたことが3月のFOMCの政策決定にさえ影響を及ぼさないことを願いたいところですが、現実には結構大きな影響をもたらす可能性があり、この人事の進展から目が話せません。