ウクライナ情勢は当初市場が楽観視していた着地点とは大きく異なり、どのように戦争が収まるのか全くわからないところに陥りつつあります。
停戦協議は開かれているものの着地点に関する双方の意見は激しく離れていて、このままさらに悲惨な事態に突入することが危惧されています。
米欧諸国は金融制裁を柱とする経済制裁を断行しつつあり、それに呼応するかのように原油価格、天然ガス価格が大幅上昇する動きになっています。
WTIの先物はすでに100ドルを超えておりさらに上昇が常態化する恐れも出始めています。
ゴールドマンサックスはここから1か月以内に1バレル115ドルになるとも予想しており、日本経済に与える影響も極めて大きくなろうとしています。
そんな中、国内で全く想定外の新たな問題になりかねないものが発生しました。
日銀が8年近く緩和措置の大義名分として掲げている実質インフレ率2%が原油の高騰ではからずも達成されてしまうかもしれないという問題です。
日銀が金融抑圧で国債買いと株買い、財政ファイナンスに利用してきた緩和の大義名分が崩れるか
日銀は上述のように2013年から実に9年近く実質インフレ率2%達成を目標にし、量的、質的金融緩和を継続してきましたが、残念ながら一度もその目標を達成することなく、その割に誰からも責任を問われることなく黒田総裁は2023年の任期を全うしようとしています。
世間で言われているアベノミクスの根幹はまさにここにあり、日銀は既発の国債を市場から買い集め、事実上国内債券市場がワークしないようにしてイールドカーブコントロールで低金利を維持することで、典型的な金融抑圧による国債費の低減と事実上の政権への財政ファイナンスを実現し、株価もETFの買い入れにより人工値付け相場を成功させています。
その見返りに財務省悲願の消費増税10%達成を実現させたのですから、政権からも財務省からも実質インフレ率2%未達などまったく問題にされていません。
黒田総裁はとにかく任期一杯までこの緩和政策を押し通して逃げ切るつもりだったのかも知れませんが、ロシアのウクライナ侵攻に起因して原油価格が暴騰して下がらない状態が示現したことで、今頃になって突然目標達成となる可能性がでてきているわけです。
一時的な達成なら逃げ切れるが恒常的に2%超なら緩和終了せざるを得ないか
この2%目標は瞬間的に達成してしまった場合、年間での達成が目標であるといった方便も飛び出して当面無視するのかも知れませんが、常態的に2%を超えることとなった場合にはさすがに緩和を黙って継続することはできなくなり、インフレが到来すれば利上げすら検討しなくてはならならないという全く想定外の状況に追い込まれることが予想されます。
市場ではすでに日銀が2023年3月までに利上げを行いマイナス金利が解消するのではないかという憶測が飛び交っていて、実際国債金利は上昇を始めています。
一部の米系金融機関は今年10月にもマイナス金利解消ではないかといったかなり前倒し感のある見通しを出し始めていますが、このウクライナ侵攻騒動を契機にして日銀の判断と市場への説明がどうなるのか市場は俄然注目しています。
黒田総裁はすでに辞める気満々で回顧録も執筆しはじめており、本来ならこの2%目標が達成してしまう前に前倒しで辞任してしまいたいのが本音であろうと思われますが、結局最後に金融緩和をどうするか判断せざるを得ないところに追い込まれてしまうのかもしれません。
日銀がひとたび緩和終了をアナウンスしさらに利上げを示唆するようなことになれば、ここまで大きく上昇が期待されたドル円にもかなり大きな変化が現れることになるでしょう。
さらにこれまで日銀が必死に買い支えてきた日経平均株価にも大きな影響がでることが想定されます。
人工的に作り出した相場はどこかで必ず元に戻る瞬間が訪れると言われてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけでその巻き戻しのボタンが押されることになるとはだれも思っていなかったことではないでしょうか。
ここからの日銀の政策動向が注目を浴びることになりそうです。