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10月後半ドイツ銀行のストラテジストが、日銀のイールドカーブコントロールはすでに壊れていると指摘したアナリストレポートを公開し話題になりました。
数十年ぶりの円安と世界的な債券市場の波乱が、日銀の長短金利操作イールドカーブコントロール政策を限界へと追い詰めているというのがその趣旨でした。

日銀が日本国債既発債の半分以上を所有する市場で、10月では過去最高の3日連続で一度も取引が行われないまま経過することもある中、日銀のイールドカーブ・コントロール政策は実はすでに破綻していると見る向きがいるのは事実で、実際破綻していると言ってもいい状況です。
日銀の固定金利買い入れオペの対象となっている3つの10年国債利回りだけが25ベーシス・ポイントの利回り以下で取引されているものの、それ以外の期日の国債は上限を大幅に上回る利回りで取引されているのが実態であり、外銀のアナリストに厳しい分析内容を突きつけられても抗いようのない状況です。

日銀黒田総裁は衆院財務金融委員会で答弁し、イールドカーブ全体を低位に安定させることが最も適当だと答えるとともに、将来2%の物価安定目標の実現が見通せる状況になればYCCの柔軟化も選択肢になるとの認識を示していますが、実は消費者物価がすでに3%の上昇を記録した今、それが必要になってきていることを感じされるところとなっています。

海外投機筋はYCC破綻を視野に入れ日本国債売り浴びせ再開

財務省が10 月27日に発表した対外・対内証券投資によると、海外投資家は10月16~22日の週に日本の中長期債を1兆3912億円売り越し、さらにその売り越しは5週連続で、累計の売越額は6兆円を超えており、今年7月あたりまでしきりに海外投機筋の売り浴びせが続き、一旦一服したかにみえた日本国債売りが改めて再開されその規模が大きくなっていることが見えてきます。
10年前の日銀のホームページを見た時には、中央銀行は金融政策で短期金利はある程度制御できるが長期金利をコントロールすることはできないと書いてあり、主要国の中銀も同じ姿勢をとっていました。

しかし黒田総裁が就任してからはイールドカーブをコントロールするのは中銀の主たる政策で、しかもコントロールは十分に可能という姿勢をとり続けてきました。
ですが、欧米をはじめとしてインフレが襲来し土の中銀も利上げを余儀なくされはじめている足もとの状況で、日銀だけが我関せずと金利の抑え込みをここからずっと行っていけるかどうかは非常に大きな問題で、ここまで頑なにYCCを維持した挙句に修正を余儀なくされる状況に陥った時には、市場にとてつもないリスクをもたらすことが危惧されはじめています。

日銀YCC修正なら円急騰で世界的に市場に混乱拡大

日銀が10年物国債利回りを0.25%以下に抑えるこの政策を撤廃、あるいは修正しただけでも円は急騰することが予想されます。
ドイツ銀行のストラテジスト、アラン・ラスキン氏は、YCCが変更されれば幅広い資産クラスに大きな影響をもたらしかねず、ドル円も簡単に5円程度の円高にシフトすることを予想しています。
またその結果日本の金利が上昇した場合、日本の投資家が外貨預金を解約させて円買いに走ることから、一層ドル円を円高に押し上げる危険性も指摘されはじめています。

こうしたことを勘案すると、日銀は簡単にイールドカーブコントロールをやめるわけにはいかない状況が見えてきますが、さらにそれとは別の大きな問題が顕在化してくることになります。

日銀の事実上の債務超過状態も露見か

現在のイールドカーブの金利抑制水準を少しでも上げ始めると市場はさらなる利上げを要求するために日本国債の売りが加速することになり、市場の既発債の半分以上保有関係から金利が上昇し、債券価格が下落すると日銀は完全な債務超過に陥る可能性がでてくることになります。
もちろん満期保有を前提にしており年間の会計報告にはそうした数字は現れませんが、事実上の債務超過を評価するのは市場なので著しくその信認性が低下することも考えられます。

また、銀行から引き受けて当座預金に豚積みになっている預金の利払いも増加することになり、こちらも日銀を大きく圧迫するリスクが高まります。

ひとたびYCCを断念すれば市場からのさらなる利上げ要求相場が示現する可能性は相当高く、結果的に日銀の信認性は大きく揺らぐことになり、一旦は円高にシフトした為替は逆に日本売りから最大の円売りへと再シフトするリスクも高まることが考えられるわけです。
しかしどれだけのリスクがあってもこのままイールドカーブコントロールを続けるわけにはいかない時間はもうすぐそこに迫っており、果たしてどうやってこの厳しい状況下でソフトな出口戦略を履行することになるのか、あるいは出来ないのかに市場の注目が集まります。

円安は日銀の政策だけが理由ではないと指摘する向きも多いです。
もちろん複合的要因で形成されているものの、その中でかなり大きなポーションを占めているのがこのYCCの存在であることを意識する必要があります。