中国・習近平国家主席は実に7年ぶりにサウジアラビアを訪問し、バイデンのサウジ訪問時とは打って変わって絶大な歓迎を受けている姿が全世界に発信されることとなりました。
表面上は米国の覇権を切り崩して中国と中東が戦略的なパートナーシップを確立することが予想されはじめていますが、金融市場の視点で言うと長年基軸通貨としての地位を確保してきた米ドルの存在が大きく変化し、市場が予想している以上に早いスピードでその座から転げ落ちる可能性がでてきていることを示唆しており、ドル本位体制が果たしていつまで続けられるのかに大きな関心が集まりそうな状況になってきました。

西側諸国のメディアが発信する情報だけ見ていると、ドルを中心とした基軸通貨体制は依然盤石であり、そう簡単に崩壊することはないという論調がほとんどですが、アンチ米国という国は我々の想定をはるかに超えるほど多いのもまた事実で、中国の動きから基軸通貨の世界に凄まじい変化が起きることもありうることを考えておかなくてはならない時間になってきたようです。

Photo AFP時事

今回中国はサウジアラビアと戦略協定を締結し、一帯一路とサウジの経済改革計画ビジョン2030の連携を進め直接投資を増やすことをうたった覚書にも調印し、米国を尻目に想像以上に強固な関係構築に踏み出しています。
また習近平は12月9日にはペルシャ湾岸6カ国から成る湾岸協力会議(GCC)に出席し、石油などの輸入を拡大すると約束してエネルギーや先端技術などの分野でこうした中東産油国と密接に連係することを確認しています。

米国の中東における覇権を突き崩すという点ではかなりの進化が認められる状況となっていますが、金融市場での注目点は中東産油国からの原油買付がドル建てではなく人民元建てが基本として定着することになるのかで、こちらは一段と現実味を帯びてきています。

人民元建ての原油取引決済が定着化すればドルは世界の基軸通貨の座を追われることに

この中国の動きの中で金融市場が注目しているのは、今後の中東諸国と中国の原油を含めた取引が人民元建てで行われることが日常化するかどうかという問題です。
これまで原油取引と言えばほんの一部の例外を除けば完全にドル建てで行われてきたため、これが中国と中東との関係緊密化により完全に破られ人民元建ての取引きが定着することになれば今後発行されるデジタル人民元の使途も大きく広がることが予想され、為替市場における人民元の座が劇的に変化することが考えられるようになってきました。

最近では中国が莫大な金の現物を購入したことが話題になっていますが、12月7日に中国人民銀行が発表した金準備は6367万オンスと10月末の6264万オンスから増加しており、米債を購入することから金を購入することに鮮明にシフトしていることが窺われる状況となってきました。
ウクライナ戦争を契機としてロシアの保有外貨を一切使わせないといった厳しい米国および西側諸国の制裁を目の当たりにしているので、中国が米ドルへの依存度を大きく下げる動きにでるのは当たり前ともいえますが、中東諸国との関係強化をきっかけにそれがさらに進むことも考えられる状況となってきています。

SWIFTを利用しない国際送金もさらに一般化する可能性

中国では西側諸国が作り出したシステムであるSWIFT国際銀行間金融通信協会の資金送金システムを利用せずに、独自のシップスと呼ばれるシステムを積極的に利用する方向に動いています。
当初の扱い金額は非常に限定的でしたが今はロシアさえもこの仕組みを利用し始めていると言われており、中東諸国が原油取引決済に一斉に人民元とこのシップスを利用するようになればドル建て、SWIFT利用の国際資金送金が大きく廃れることも予想されるだけに、個々からの動きには目が離せない状況が続きます。

ドルはいずれ基軸通貨の座を追われることになるというのはかなり前から金融市場では多くのエコノミストやアナリストが予想してきたことですが、そのほとんどはここからまだ10年以上先の話としていたものの、足もとの動きを見ているとさらにその時は前倒しになりそうで、ドルが安全通貨の座から転げ落ちるのもそう遠い話ではなくなっていることが見えてきます。
米国はこれまでだいたい景気が悪くなるとドル安へとシフトさせる政策をとってきており、ごく近い将来に起こりそうなリセッションでは恐らくまたドル安を仕掛けてくることになるであろうことは容易に予想されるますが、基軸通貨から転げ落ちることが並行して起きるのであれば想定を遥かに超えるドル安が示現することも覚悟しておく必要が出てきているようです。