12月も第四週に入った相場は、すでに欧米勢が続々とクリスマス休暇に入っており、閑散の様相となっています。

留守番役として市場に残るAI実装のアルゴリズム取引と思われるトリッキーな動きも散見されますが、クリスマス明けから市場に戻る投資家も少なくないため、為替相場にも新たな動きが見られるかもしれません。

そんな中、2024年年明けの相場で最も注意しなくてはならないのが、10年以上続いた円キャリートレードの大幅な巻き戻しです。

FRBの利下げと日銀の利上げが実現すれば円売り巻き戻しは確実か

11月末、感謝祭を前に152円を突破する勢いだったドル円は、市場に溜まり過ぎた円売りの一斉巻き戻しが出たことで、状況は一転し4.7円も円高方向に下落する展開となりました。

また今月14日に開催されたFOMC後に行われた会見にてパウエル議長が2024年の利下げを示唆した際も、本邦財務省による5兆円規模の円買介入とほぼ同レベルのドル売り円買い相場となりました。

ここ最近を振り返ると、11月中盤には152円目前にまで迫ったドル円が、日米中銀による政策変更が行われていないにも関わらず、11円以上も円高が進んだことになります。

FRBが市場の織り込み通りに政策変更を打ち出してくれれば、来年は0.75%以上の利下げが現実のものになる可能性が高まり、さらに日銀が周回遅れでマイナス金利をゼロ以上に修正する政策が重なれば、日米の金利差は急激に縮小することになります。

それが実現すれば両国の債券金利に変化が現れ、ドル円はここからさらに下落するリスクが高まります。

 

Data Bloomberg 日米金利差チャート

 

11月末に露呈した円売りの巻き戻しとFRBの利下げ期待だけで、ドル円が11円以上円高に振れたことを考えると、年明けの早い段階で政策金利の縮小が実現すれば、米国の債券金利はさらに下落すると考えられます。

一方円債金利は上昇幅を広げることになるため、ドル円はさらに円高方向に動くリスクを意識しておく必要がありそうです。

円キャリートレードの巻き戻しは強烈なドル円下落を招く

日銀が未曾有の金融緩和に打って出てからすでに10年以上が経過しますが、その間ゼロ金利からさらにマイナス金利へとシフトチェンジが行われたため、世界的には円で資金調達を行いその資金を欧米の金融市場で株や債券の投資にあてる動きが目立つようになりました。

ZeroHedgeの最新の記事によると、その額は20兆ドル(日本円にして2,800兆円)を超えるレベルに達していると見られており、ここからドル円、株価ともに大幅に下落することになれば、一気に円の巻き戻しが出るのではないかとの観測が高まっています。

円キャリートレードの大幅巻き戻しと言えば、1998年に起きたロシア危機で米国ファンドのLTCMが破綻したことにより、数か月で35円というドル円の大暴落が起きたことが有名ですが、2008年9月にリーマンブラザーズが破綻した際も、12月中盤までに20円以上の巻き戻しが起こっています。

円キャリーの巻き戻しと言うとドル円がフォーカスされがちですが、当時に高金利通貨として知られていた豪ドル円の巻き戻しはドル円以上で、底値と思われた水準からさらに下落し、多くの投資家が手痛い損失を食らう状況となりました。

円キャリートレードの中身は様々

円キャリートレードと言うと、その名のとおり金融機関から日本円で資金を調達したり、ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社であるバークシャーのように、円債を発行して資金を集めることが思い浮かびます。

しかし実際は、日本から円をドル転、ユーロ転するなどして欧米の市場に投資する資金も円キャリーとしてカウントされており、20兆ドル(日本円にして2,800兆円)という数字は、それらすべてを合計した金額になっています。

この金額は、円キャリーの大幅巻き戻しが起きた1998年や2008年よりもはるかに巨額であることがわかります。

ドル円の巻き戻しで115円割れもあり得る状況

ドル円相場は、ここ1年ほとんど下落しない状況が続いたため、一気に20円や30円も下落するという状況は信じられないという方も多いかもしれません。

しかし冷静に昨年の相場を見てみると、10月に152円スレスレまで上昇したドル円はその後行われた為替介入の影響もあり、今年の初めには127円レベルまで、25円規模の下落に見舞われていることがわかります。

短期の下落ではないため、それほど強いインパクトはありませんが、まったくあり得ない話ではないということは認識しておく必要があります。

さらにFRBはインフレ対策により利上げ政策をスタートさせた当初、ドル円は115円辺りを推移していたことを考えると、30円以上下落する可能性さえもあります。

 

一気に円高となる場合もあれば徐々に円高へシフトする場合も

円キャリートレードの場合、140円レベルで仕込んだトレーダーはすでにこの水準を割り込むと差損が出ることになるため、早々にも巻き戻しを行う可能性があります。

130円に設定した場合は、完全な円売りの買戻しにはまだ猶予がありますが、瞬間的にこれを下まわった場合、ヘッジのためにドル円を売る動きも市場に多く示現することが予想されます。

大暴落時のように一気に円高となる場合もあれば、順次円高にシフトしていく動きとなる場合もあり、どちらにせよ相当な注意が必要になります。

相場は閑散としつつありますが、クリスマス明けから流れが変わる場合もあるため、突然円キャリートレードの激しい巻き戻しが発生することも想定しながら取引を行う必要があります。

ドル円相場は、今年の後半から高止まりの状態が続いており、日米金利差を理由にここから大きく値を下げることはないであろうと油断しがちですが、常にあらゆる危険性を想定しておくことが大切です。