ユーロ圏といえば、経済的に調子の悪い国があっても、ドイツが経済成長をリードし域内での帳尻合わせをするというのが、ここ数年の流れとなっていますが、そのドイツ経済もとうとう他国を助けられるほどの余力がなくなってきたことが指標に露見し始めています。
9月18日に発表されたドイツ連邦銀行の月報によると、ドイツ経済は2023年第3・四半期に前期比で減少し、マイナス成長に陥る可能性が高いという見通しが示されています。
ドイツは、今年に入り一時的に景気後退に陥り、第2・四半期の国内総生産(GDP)は横ばいとなっており、第3・四半期に減少となった場合、4四半期連続でマイナス成長または横ばいとなることが予想されているのです。
ドイツ経済不振の原因は多岐にわたる
ドイツ経済は、ロシアのウクライナ進行によりエネルギー不足が深刻化したあたりから低迷し始めており、直近の四半期におけるGDPについては、産業部門の不審に加え、個人消費の停滞、さらには世界経済の停滞が大きく影響していることが指摘されています。
ドイツの産業部門はかつてないほど低迷しており、これが経済全体に悪影響を及ぼしているのは間違いありません。
また、物価の高騰や購買力の低下、金利上昇などにより、個人消費と建設投資が停滞しているのも、GDPを大きく引き下げる要因となっています。
ドイツ経済の停滞はユーロ経済の停滞
ドイツ経済の低迷は、EU圏全体にも大きな影響を与えることは間違いなく、今後はドイツと共にEU圏全体が低迷する辛い時間が続きそうな状況にあります。
成長率の下方修正は避けられない状況で、すでに欧州委員会は、2023年のユーロ圏成長率見通しを従来予測の1.1%から0.8%へと引き下げており、下手をすれば、EU圏全体でゼロ成長に向かう可能性すら出てきています。
また、ここへきてドイツが、財政的に不安の大きい南欧諸国に対して財政規律の維持を求めることになれば、南欧諸国の経済成長が著しく抑制される事態に陥ることも容易に予測できます。
さらに、ドイツの輸出依存度の低迷は、間違いなくEU諸国に影響を与えることになり、今後のEU経済はさらに疲弊していくことを覚悟せざるを得ない状況です。
ドイツ連銀は経済モデルの改革を国に提案
ドイツ連銀は上述の月報で、インフレの鈍化や賃金の堅調な伸び、労働市場の好調が見られる一方で、消費者の支出控えが目立つと指摘しています。
また、製造業の不振が深刻化し、資金調達コストの上昇が内需と外需のひずみを増幅させる可能性も指摘しています。
この低迷は一時的なもので、2024年には下のグラフのように改善に転じると同連銀は予想していますが、果たしてシナリオ通りに事が進むかどうかは依然不明であり、まだまだリスクが残る可能性が高いと見られています。
オラフ・ショルツ首相率いる新政権は、2021年12月8日、16年間続いたアンゲラ・メルケル政権の後継として発足しました。
この新政権は、社会民主党 (SPD)、同盟90/緑の党 (B90/Gr)、自由民主党 (FDP)の三党連立政権ですが、メルケル氏が不在となってから不安定な状態にあることは、我々の目から見ても明らかです。
ショルツ政権は、デジタル化を加速するためにITや通信関連のインフラ構築に多額の投資を行う方針を掲げています。
また、21世紀の経済成長の鍵となるイノベーションを促進するため、2025年までに国内総生産の少なくとも3.5%を研究開発に回すと約束していますが、こうした政策が経済成長には繋がっていないのが実状です。
地球温暖化対策の一環として米国と連動する気候保護政策には、緑の党の主張が数多く盛り込まれていますが、ウクライナ戦争の勃発によりそれどころではなくなってしまったというのが現状のようです。
ショルツ政権不人気の最大の理由は、インフレ(特にエネルギー価格の高騰)が生活を直撃しているにも拘らず、政府対策が的外れだという印象を与えていることにあり、これは岸田政権にも通じるものがあります。
ただ脱原発については、この春ドイツ国内のすべての原発稼働を停止させ、暖房器具の省エネ転換を急がせる暖房法案の議会通過を急ぐなどの対策を行っていますが、こちらも人気低迷の材料となってしまっているようです。
ユーロドルはまたしてもパリティを目ざすのか
直近のユーロドルは、今年7月まで上昇軌道に乗るかのような動きを見せていたものの、それ以降は完全に下落トレンドを形成しています。
このまま行けば、ごく近い将来には1.0500ドルを下抜け、再度パリティを目ざす可能性が高まりつつあります。
今のところ、この状況を阻止する明確な要因はまったく存在していないため、かなり早い時間にパリティに到達することも覚悟しておいたほうがよさそうです。
為替相場の視点でユーロは、非常にリスキーな展開に突入していることが分かります。