足元の米株相場は理由はよくわからないものの、一旦相場が下落してたわむような動きになっています。
かなり長期的に相場が上昇を継続してきたわけですから一旦一息つくのは十分にあり得る話であるという見方が広がっていますが、そんな中で空箱上場と社会的な非難が高まっているSPACの上場にいよいよ金融当局が手をつけることになりそうで、この規制変化だけでも米株市場は大きく変わりそうな気配が高まりを見せています。
一体SPACの何が問題なのでしょうか。
SPACのスキームはとにかくずるずるで実質的な裏口上場
メディアでも耳にするようになったSPACですが、「Special Purpose Acquisition Company」の略号がこう呼ばれているもので、日本語にしますと特別買収目的会社ということになります。
これは端的に言えば事業買収を目的とし設立された会社のことで、設立段階ではどの事業と合併するかは決めては行けない仕組みになっており、まさに空箱の上場となります。
設立者が資金を投入して立ち上げることになりますが、このSPACは上場も可能で第三者から資金の出資を集めることも可能になっており、これが人気を呼んでいます。
初期の投資家には事前に決まっている価格で株式購入ができるワラントが付与され、これを利用することで大きな利益を得られることがSPAC投資の人気の秘密となっています。
SPAC株が上場後、値上がりすればワラントもそれに応じた利益を確保することができますし、特定事業会社と合併となった場合には、その恩恵も享受することが可能となることから、多くの投資家がSPACに注目し、事業内容もよくわからないような会社に積極的に投資行動を行っているというわけです。
特にSPAC株主は事業会社を買収して再上場する際に新会社の株式と交換することができるので、簡単に非上場だった有望企業株を手に入れられるため個人投資家にとっても非常に魅力的なスキームになっていることがわかります。
SPAC上場数は劇的に増えている
このSPACの上場は2020年から急激に増加しており、2019年に59件だった上場は2020年には年間で248件、2021年はまだ四半期しか終わっていないのにすでに308件と非常に増加しています。
これは多分にコロナ禍でFRBをはじめとする中央銀行の過剰な金融緩和で市場にジャブジャブに溢れた資金がSPACを後押しする結果になっているという見方も広がっています。
SPACの規定上は上場から2年以内に買収先を決めることが規則になっているようですが、2019年まではほぼ1年半近い時間がかかっていましたが足元ではほぼ6か月弱で合併を決めており、通常の複雑な審査が伴うIPOに比べますと実にお手軽に上場を実現できていることがわかります。
ソフトバンクグループの投資失敗で話題になったWeWorkもこのSPACを利用して13億ドルを調達する予定で、一度は断念したIPOが年内に上場できることになりそうですからいかにこのスキームが既存のIPOと異なるものなのかはこの件を見るだけでも明らかな状況です。
民主党の議員をはじめ金融当局もSPACには強い懸念を示す状況に
空箱上場は裏口で短期IPOを目指すスタートアップビジネスにとっては絶好のツールということになりますが、上場企業がこのようないかがわしいスキームで多数の銘柄となった場合には当然市場全体の信用リスクに関わる問題になることは明白で、実はすでにそうした状況が形成されつつあります。
民主党左派のエリザベスウォーレン議員などは非常にSPACのスキームの上場を問題視しており、ゲンスラーSEC新委員長も具体的な規制を行う可能性が極めて高まりつつあります。
SECはSPACが公表した業績見通しに虚偽があれば摘発する意向を強めており、さらに上述の株主付与のワラントの会計基準の見直しも行う予定で、SPACに付与されるワラントの分類を資本性金融商品と見なさず、会計上の負債と見なすことにルールが変われば、財務諸表や報告書の書き換えが必須となり、ここからは簡単にはSPAC上場が進まなくなることもありえそうで、規制強化は米株市場に大きな変化をもたらすことになりそうです。
特に米国の証券会社は昨年、今年とこのSPAC上場に関わることで大きな利益を確保してきていますが、この市場が縮減した場合、かなりの利益を失うことになりそうで、米株市場全体にも大きな影響が出そうな状況です。
いまや「なんでもあり」ですっかり2008年のリーマンショックを忘れている米国の金融業界ですが、様々な規制が強まれば現状の上昇しかない相場状況にも大きな変化が現れる可能性があり、新型コロナバブルも終焉に向かうきっかけになることも考えられるだけに、ここからの金融当局の動向からは目が離せなくなりそうです。