ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、米欧諸国が連携して打ち出した金融機関の国際決済システムであるSWIFTからの締めだしと、ロシア資産凍結によりロシア中銀が為替の介入すら出来なくなると言った事態は、ロシアルーブルの暴落とともに3月16日以降随時発生するロシア債の返済でロシアが債務不履行に陥る可能性が極めて高くなってきています。

米国は3月8日にいち早くロシアからの原油等を全面的に禁輸する措置にでています。
ただロシアから天然ガスや原油をこれまで大量に買い入れてきた欧州諸国は輸入額を圧縮する動きはみせているものの全面的な禁輸には至っておらず、必ずしも足並みが揃っていないことを露呈させ始めています。

恐らくこのままでいけばロシアルーブルは1998年以来の大暴落にさらに突き進むことになり、ロシアのデフォルトはほぼ確実なものになるでしょう。

ただSWIFTからロシアやベラルーシを排除したことにより、これまでドル建てでしか決済できなかった原油取引がロシアを中心としてこぼれる可能性がではじめており、結果的に両刃の剣で米国が戦後から築いてきた米ドルの基軸通貨という体制が自ら崩すことになりかねないところにさしかかることが危惧され始めています。

俄然注目を浴び始めた中国のCIPS

ロシアも2014年のウクライナクリミア半島併合の問題で西側諸国と揉めてからは独自の国際金融システムの確立に務めてきたようですが、それをさらに進めているのが中国人民銀行が2015年に開発した人民元による国際銀行間決済システム・通称CIPSです。
すでに一帯一路の参加国など、中国がインフラ事業や資源開発で影響力を強める国々の銀行やマレーシアなどアジアの新興国、さらに南アフリカ、ケニアなどアフリカの国の銀行も利用を始めており、SWIFTの200か国以上には依然及ばないものの89か国まで拡大しはじめています。

本邦勢も三菱UFJ銀行とみずほ銀行の中国法人が同システムに接続できており、かなり利用銀行は拡大しています。

ロシアがこのシステムを利用して原油や天然ガスを決済する場合、SWIFTではルーブルからドル、そして人民元といった形で両替しますが、CIPSでは直接ルーブルを人民元に替えられるので取引コストが大きくなると懸念されています。
しかしこの先デジタル人民元がローンチし、ブロックチェーンでそれを管理するといった仕組みが導入されたら送金時間もコストも劇的に安くなることが考えられ、なにより原油取引の一角がドル建てでなくなるというのは相当なインパクトを市場に与えることになり、米国は図らずも対ロシア制裁でドルの基軸通貨という長年守りぬいた座を自ら崩しかねません。

ドルが基軸通貨でなくなれば主要国が外貨準備で米債を買う理由も消滅

米ドルが国際間での資本取引や貿易取引において広く使用される決済通貨として機能していたことにより、米ドルの基軸通貨の座は長く守られてきました。
その座が維持されているがために、世界の国々のほぼ6割が米債を購入することによってドルを確保しており、ロシアも中国も米債保有を余儀なくされてきました。

しかし今後ドル建てでなくても自由に国際金融決済が出来るようになるならばドルを準備しておく必要はなくなり、今回の対ロシア制裁がそうしたパンドラの箱を開くきっかけになってしまうかもしれません。

こうなるとドルの世界市場での位置づけも大きく変わり、なにかあればドル高という相場の状況にも劇的変化が訪れる可能性もありそうです。

今後の状況を引き続き注目していきたいところです。