Photo Bloomberg

セントルイス連銀のブラード総裁は基本的にタカ派で知られる存在ですが、ケンタッキー州ルイビルでの講演において、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授が考案した指針「テイラールール」の複数の分析を示しながら十分抑制的な政策金利について5-7%程度になる可能性があると説明をしており、講演後記者団に対しても5%から5.25%が最低水準の利上げになると発言して注目を集めています。
このテーラールールについては過去のFRBの利上げでも何度となく取り上げられてきた理論であり、今更新しい考え方というわけではありませんが、ブラードが口にしたことで改めて関心が集まりつつあります。

ブラードという人はかなり長くFRBのメンバーとして働いておりその発言はご都合主義的であるという指摘もありますが、もともと共和党員なのでバイデン政権でさらに高いポジションに就任する可能性はないことから、鋭く本当の事を言うタイプと認識されているのが特徴で、債券市場からの信認が相当強く今回の発言を受けても確実に債券金利が上昇する動きになっています。

そもそもテーラールールとは

このテーラールールは1993年に米国の経済学者のジョン・ブライアン・テイラー氏が提唱しはじめた金融政策ルールのことを指します。
このテイラー氏は1968年にプリンストン大学で経済学の学士号を取得、1973年にスタンフォード大学で経済学の博士号を取得しています。
1973年から1980年にかけてコロンビア大学で、1980年から1984年にかけてウッドロー・ウィルソン行政大学院(en)で教師となった後、スタンフォード大学に戻り、彼は教職において学部課程の教育に対してホーグランド賞、入門経済学講座の賞としてローズ賞を獲得し、現在スタンフォード大学で入門経済学講座を指導しています。

実はイエレン前FRB議長退任の際にはテイラー氏が新FRB議長になるのではないかとさえ言われていたので、FRBにとってはかなり近しい存在といえます。

同氏が唱えるテーラールールとは経済状態に応じて、貨幣の供給量ではなく政策金利を変化させる金融政策ルールで、具体的には現在のインフレ率が長期的な目標値からどれだけ差があるか、景気変動に対応する需給ギャップが均衡値からどれだけ離れているかに応じて、政策金利の変更(上げ下げ)を行っていくという概念で、既に市中にバラまけるだけ紙幣をバラまいてしまったFRBがインフレに直面して実施しようとしている政策となっているわけです。

インフレ率とは消費者物価上昇率のことで、最近の相場では毎月大騒ぎになるCPIの数字がそれに該当しています。
また需給ギャップとは現実のGDPと潜在GDPの差を指しています。
一般的には、政策金利=均衡実質金利+インフレ率+0.5 ×(インフレ率ー目標インフレ率)+0.5 × 需給ギャップの数式によって定義されます。
ただ最近ではこれにいくつものバージョンが登場しており、ブラードも講演で複数の数値を開示しています。

テーラールールに基づけば米国のFF金利は5~7%というレベル

上のチャートは実際の米国のFF金利とテーラールールに基づいてあるべきゾーンとの差を示したものですが、御覧のとおり現状のCPIが示すインフレ率から考えれば4%台のFF金利は全くワークしていないことが見えてきます。
現実には最低で5%、あわよくば7%レベルまで引き上げる必要があることが見えてきますが、実際米国の債券依存度はすさまじいものがあります。
発行国債の償還期の平均は5年程度と日本よりもさらに短いことから、7%の利上げでは足もとの税収をすべて投入しても払いきれない可能性があり、本当にどこまで利上げをできるのかが大きな問題になりそうです。

パウエル議長は相当な覚悟を決めている可能性

実際12月のFOMCでパウエル議長がどのような判断を示すのかが注目されるところですが、1930年ごろからFRBが利上げを行ったのが88回中76回は50ベーシスポイントだったようで、75ではなく50ベーシスポイントというのは決して低い利上げペースではなく、巷の市場参加者が12月FOMCで利上げ幅が下がるからと歓喜するような数字ではないことが見えてきます。

実際どこまでターミナルレートを引き上げるかはFRB次第の状況ではありますが、各連銀の高官がタカ派、ハト派発言をするなかではこのテーラールールは相当信ぴょう性の高いものと言えそうで、FRBがどこまでそれを参考にしていくかが注目されます。
ターミナルレートが5%を超え始めるとなればどこかで米株は大きく下落する局面に見舞われることになり、ドル円も再度150円方向を試す可能性も出てくることから、今後のFRBの利上げ決定動向からはまだまだ目が離せません。