東証を運営する日本取引所グループは、プライム・スタンダード市場を対象として株価純資産倍率1倍割れを継続する企業に対して改善に向けた取り組みや進捗状況の開示を要請することとなりました。
実はこの背後には金融庁がいて、PBR1倍割れを急激に改善することを仕掛けていると言われています。
米国の証券会社などを中心として海外勢はこれをかなり好感しているようで、本当に1倍割れが改善するなら日本株に積極投資を行うことを示唆しはじめていますが、政府と証券取引所が一緒になってこうした取組を上場企業に強く働きかけるというのは資本主義社会を逸脱しかねない前代未聞となり、株の業界は大喜びのようですが識者や投資家の一部からは辛辣な批判が巻き起こり始めているようです。

そもそもPBRとはそんなに簡単に弄れるものなのか

PBR(Price Book-value Ratio)は株式投資では常に出てくるターミノロジーですが、株価が割安か割高かを判断する最も重要な指標な1つであり、株価がBPS(1株当たり純資産)に対して何倍まで買われているかを示したものです。

具体的な計算方法としては株価をBPS(1株当たり純資産)で割って算出します。
たとえば株価が1000円でBPSが800円だとすればPBRは1.25倍ということになります。
これは時価総額を純資産で割っても同様に計算可能です。

PBR1倍と言う水準は株価と1株あたりの純資産が等しくなるので、万が一会社が解散に追い込まれる事態になってもこの会社が保有する資産を全部売却すれば株主にはその持ち分に応じて資金を返却することができます。
PBR1倍超は解散時に株価に見合う資産が戻ってこない恐れがありますが、成長性が評価されている状態ということがわかります。
逆に1倍割れは成長性が認められていないと判断され、それでも成長力があるなら割安株と判断できますが成長がまったく望めないのであればそれは危ない株式と判断されます。

東証市場プライムとスタンダードでPBR1倍割れ株は実に5割超

現状の東証プライムおよびスタンダート市場ではこのPBR1倍割れ株が5割超と非常に高い水準で推移しています。
米国が5%、欧州でも24%なので本邦市場がとりたてて高いのは事実ですが、改善の余地ありと考えても果たしてこれを証券年匹所が主導して強引に改善していくといったことに意味があるのかという大きな問題があります。

このPBRを上げるには2つの方法が考えられます。
ひとつは株価をさらに上昇させることで、もう一つは1株あたりの純資産を減らすことです。
米国の多くの企業は低金利下の状況では株価を上げるために自社株買いを積極的に実施してきています。
自社株買いには純資産とほぼ同義である自己資本を減らす効果があることからPBRを1倍以上に引き上げるには絶大な効果がありますし、多くをストックオプションで報酬を得ているCEOクラスにとっても自らの収入を増やすのに貢献することから、積極的に取り組む企業が多いのも現実です。

しかし本邦のプライム、スタンダード上場企業で5割調が1倍割れということになるともっと他に根本的な原因があり、目先の手法でそれを無理やり引き上げることに躍起になるのが本当に意味のあることなのかが大きな問題になります。

技術的にPBRを引き上げるのに金融庁が裏で糸を引く状況は相当な違和感

本邦企業が国際競争力を維持するためにもPBR1倍以下をなんとか引き上げなくてはならないという発想は理解できます。
ただここまで多くの企業が1倍割れとなっており、しかもここ10年日銀が株価を人工値付けで引き揚げ、日経平均で言えば今も5000円以上の下駄をはかせた株価でもこの体たらくな状況なので、自社株買いという手法でその数字を改善させていくというのには相当な違和感を感じざるを得ません。

しかも主要国で金融庁が音頭をとって証券取引所が乗り出して改善を進めるというのは前代未聞であり、計画経済の臭いすら感じます。
金融庁がこうしたことに乗り出し始めているのは岸田政権が投資で所得を倍増させるという計画を上げているのをサポートするのが背景にあるのだろうと推測されますが、資本主義社会の株式市場の尋常さを大きく欠く動きに見えるのは当然で、証券関係者は喜んでいるようですが識者やまともな投資家からは批判の目が振り向けられるようになっています。
ここからの東証の動きと市場の反応に注目していきたい時間が続きます。