イスラエルとパレスチナ・ハマスとの戦争が始まってからというもの、冷静な対応をとってきたイランですが、ここに来て事態は急変しています。

今月、米英軍がイエメンのフーシ派施設を次々と爆撃したことにより、イランが武力衝突を本格化しホルムズ海峡を封鎖するのではないかという懸念の声が高まっています。

状況は我々の想像以上に深刻化していることが窺えます。

激化する紅海での商船攻撃で海上輸送リスクが拡大

Photo Reuters

 

米軍と英軍は1月11日、合同でイエメン国内におけるフーシ派拠点を標的とした空爆を各地で実施しました。

米国および英国は、この攻撃を紅海での船舶攻撃への報復措置と説明していますが、この攻撃により紅海はさらに危険な海上輸送のルートと位置付けられ、海運企業の多くは7,000キロ以上遠回りとなる南アフリカの喜望峰ルートへの変更を余儀なくされています。

今回の作戦に参加したバーレーン、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、セーシェル、スペインは、紅海における一番の攻撃対象となりかねないため、輸送ルートの変更はやむを得ない状況です。

武力行使ではなく経済戦争により欧米諸国へ打撃を与えようというイランの公算

 

イスラエルとハマスの武力衝突が始まって以降、イランは戦闘参加の姿勢を示してきませんでしたが、米英軍による今回の攻撃は、明らかにイランを挑発するものであり、イランとしてもこのまま見過ごすわけにはいかない状況へと追い込む結果となりました。

イスラエルはもちろん、その背後にいる米国に対し、武力以外で大きなダメージを与える方法として考えられるのが原油の輸出禁止措置です。

また、多額の資金が動く原油ビジネスに大きく揺さぶりをかけることも、米国にとって大きな痛手となることが考えられます。

ホルムズ海峡を封鎖することは、イラン自身にも大きな影響がおよぶことから、簡単に封鎖には踏み切らないであろうと見る米国系メディアもあります。

ただ一方で、ロシア・イラン・インド主導のもと進めている陸路による輸送ルートが、一部区間において運行を開始するほど完成に近づいているため、この「南北国際輸送回廊」が本領を発揮する時も近いのではないかという見方もあります。

 

南北国際輸送回廊のルート

 

この陸路回廊を利用すれば、ロシアからムンバイまで6週間かかっていた輸送時間を、3週間で運送することが可能となり、原油のみならず石油製品の輸出にも十分役立てられます。

またインドのムンバイからは、従来の輸送ルートと連結することが可能になるため、南北国際輸送回廊の利便性はより一層高まります。

足元では、原油に関わるデリバティブ市場の規模は、米国を中心に600兆ドルと、70年代に発生した石油ショック時とは比べ物にならないほど膨れ上がっています。

それだけに、中東から西側諸国に向けた原油輸出が禁止される事態に陥れば、金融市場において巨額の損失が示現するなど、米国市場における大混乱は免れません。

イランは武力行使ではなく経済戦争により米国にダメージを与え、大きな成果を得ることを考えているようです。

このような発想は、背景にあるBRICSを通じて構築されたものと見られますが、これにサウジアラビアをはじめとする中東アラブ諸国が便乗すれば、さらに大きな成果を上げる可能性が高まります。

バイデン大統領がどこまでイランと対峙するかも今後のポイント

ウクライナ戦争に関しては、ゼレンスキー大統領が徹底抗戦を訴える一方で、国際社会からの関心は低下しつつあり、現在は話し合いによる紛争解決へと舵切りが行われています。

そのような状況の中、緊張を高める中東情勢についても、バイデン大統領は今後どのように向き合っていくかが大きなポイントとなりそうです。

すでにこのコラムでは、バイデン大統領が3月のスーパーチューズデーで健康状態を理由に出馬を取りやめるのではないかという話をご紹介していますが、それが現実のものとなった場合、11月までは「レームダック化」することになります。

そうなればイランとの対立が激化しても、すぐに有効な手段を講じることができずに、事態が深刻化するリスクが高まります。

今回、米英軍が武装組織の一派であるフーシ派に攻撃を仕掛けたことにより、中東情勢は一気に緊張の度合いを高めていますが、現状は日本のメディアで報道されている以上に深刻であることが窺えるため、今後突然事態が急変する可能性も視野に入れておく必要がありそうです。