8月第三週の為替相場は本邦勢がお盆休みということで静かな幕開けとなりましたが、介入が懸念されるドル円は週初からじりじり上がりはじめ、週終盤の17日にはとうとう146円を突破して146.500円レベル、完全に前回の介入レベルまで上げる動きとなりました。
特に印象的だったのはNYタイムで、米債利回りが上昇し始めるとドル円もそれについて行く動きとなったことで毎日50銭から70銭程度の上下動を伴うだけで大幅な上昇を受けた当局の介入実施することはありませんでしたが、その分じり高になって週末までには147円突破してしまうかのようにも見られる動きとなりました。

ドル円一週間の動き

中国のデフレ突入、不動産バブル崩壊、為替介入でドル円にも影響

介入にはならない程度のじり高で日々の相場を過ごしたドル円はさらに上値を試すことになることが期待されましたが、8月17日に中国関連で悪い材料が次々を示現し、相場はいきなり方向を変える事態に陥っています。
中国当局から発表された7月の物価統計で消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)が共に前年同月比で下落して2020年以来の低水準となり、いきなりデフレに突入する可能性が高まることとなりました。
月次CPIは食品とエネルギーを除くコアで0.8%増1%を下まわる状況でPPIもGDPデフレーターもマイナスとなっており、21世紀序盤から世界の経済をけん引してきた中国は足元で間違いなく大きな変化を示現していることが明らかになりました。
今まで米国のインフレ指標にだけ気をとられてきた市場はこの数字を驚きをもって迎えることになっており、今後中国がデフレ大国として停滞した経済を延々と持続することになれば世界の経済にどこまで影響を与えるのかが大きな注目点となってきています。


また、これと時を同じくするように17日、経営再建中の中国不動産大手である中国恒大集団がニューヨークの裁判所に外国企業の破産手続きを調整する連邦破産法15条の適用を申請し、その負債総額が2兆4374億元(約48兆円)であることからリーマンショック級の不動産バブル崩壊という報道も市場を駆け巡り、相場はいきなりリスクオフの展開となりました。
17日に大きく下げた米株を受けてドル円もNYタイム、東京の深夜時間帯に大きく値をさげ明けた18日には145円台で終日推移し、同日のNYタイムには瞬間的に145円を割り込むところまで下押しすることとなっています。

ドル円18日の動き

ただこの中国恒大集団の経営破たん問題はすでに何年も前から顕在化していたものなのでいきなり足元で起きている訳ではなく、表面上すっかり資本主義化してみえるこの国は依然として社会主義を貫いているため不動産関連の国営、民間企業を粛清して損失を始末するのは日本の不動産バブル崩壊の時とは比べ物にならないぐらい迅速に展開することが予想され、立直りもかなり早くなるだろうと思われます。
そういう意味では中国バブル崩壊はその後にすさまじい勢いで襲ってくるデフレ社会のまん延のほうがより大きな問題になりそうな状況です。

西側のアナリストたちは新型コロナ拡大直後一旦大きく落ち込んだ中国経済はここへきてかなり持ち直しており、インフレが台頭することを懸念事項に挙げていましたが、実際個人消費はポストコロナでもまったく回復しておらず中国の消費の典型とも見られてきた高額商品の購入を控える消費者が激増しています。
このデフレ現象は90年台の本邦にもみられたもので初期には多くの商品、サービスの値下げが行われることから一見暮らしやすい状況となりますが、これが行きわたれば経済活動はみるみる停滞をはじめ最終的には働く国民の所得を減少させ多くの人が職を失い、結果支出はさらに減少、負のスパイラルに突き進むことになります。
これは時間の問題で、デフレ超大国の誕生が世界にどれだけマイナスの経済効果をもたらすかが大きな焦点となりそうです。

週明けまずはジャクソンホールに注目

各国の中央銀行トップや経済学者らが参加する毎年恒例の経済シンポジウム・ジャクソンホール会議が8月24日~26日に米ワイオミング州で開かれますが、FRBはすでに7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き上げで、さらに追加利上げも今後の経済データ次第と含みを残していることから、パウエル議長が引き続きタカ派姿勢で状況次第ではまだ利上げを継続する可能性があるとするのか一旦の打ち止めを示唆するかで相場は大きくその動きを変えそうな状況です。
パウエル議長の講演は日本時間25日の午後11時頃と週末の立ち会いを終えた後になることから、当座は会議がはじまっても様子見ムードが強まることが予想されますが、パウエルFRB議長の発言次第では日米の長期金利の上昇が再開する可能性があり、一旦は中国問題などでリスクオフ化し上昇を止めたようにみえるドル円が再度本邦財務省の介入水準である147円方向に動くこともあらかじめ意識しておきたいところとなります。

南アのBRICS会議は西側諸国への対応策が注目点


すでにこのコラムではご紹介済みですが、8月22日から24日までジャクソンホールに先行する形で新興5カ国・BRICSは南アで首脳会談を開催します。
構成国はブラジル、南ア、ロシア、中国、インドが中心であり、ロシアのプーチン大統領はウクライナにおける戦争犯罪容疑で国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ているため対面出席を見送るもののオンラインでの参加意向を示しています。
このBRICS会議、具体的な議題は明らかになっていませんが加盟国の拡大が大きな争点となる見通しで南アによると、現在サウジアラビア、アルゼンチン、エジプトなど約40カ国が加盟に関心を示しているといいます。
西側諸国が大きな関心を示しているのはこの会議でBRICS共通通貨の開発・ローンチが具体的に示されるかということで、SWIFTを利用しなくてもこの共通通貨を利用して貿易決済が出来るようになったり、外貨準備のために米債を購入しなくてもいいようになった場合、米ドルには相当大きなダメージが加わることが予想されます。
もちろん一日にして米ドルが基軸通貨の座からひきずり落とされることにはなりませんが、影響がでることはほぼ間違いありません。

このように週明けは開催されるイベントの内容、要人発言次第でドル主体に上下動が起きるリスクが極めて高く、とくにドル円では上昇再開をしっかり見極める必要がありそうな一週間となります。