今年も24日からジャクソンホールにおいてカンザス地区連銀が主催の年次総会が開催されます。
今年のテーマは「世界経済の構造変化」で、景気や物価への影響が中立的な金利水準とされる自然利子率について言及があるのではないかといった観測が飛び交い始めています。
今回はその会合を控え、自然利子率なるものが一体何なのかについて理解を深めておきたいと思います。

そもそも自然利子率とは・・

自然利子率というのは金融市場に関わっていてもそれほど頻繁に聞く言葉ではありません。
辞書で調べてみると、自然利子率とは景気に対して緩和的でも引き締め的でもない中立的な金利(利子率)のことを指すとされています。
これは「中立利子率」や「均衡実質金利」とも呼ばれます。

景気を刺激も抑制もしないとされる短期金利の水準で中央銀行の金融政策を決定する際に重視されるのがこの自然利子率ですが、一方でその各種推計には幅もあるとされています。
自然利子率が低ければ、景気が後退した場合に政策金利を引き下げても効果が薄くなります。
一般に物価上昇分を加味した(名目利子率から期待インフレ率を差し引いた)実質金利は消費や投資に影響を与えると言われており、通常実質金利が自然利子率を下回ると景気が刺激され、逆に自然利子率を上回ると景気が冷やされます。

パウエル議長が自然利子率について言及すると相場が動く可能性

足元の市場では、米国のこの自然利子率は実は従来考えられていた水準より高いところにあるのではないかという議論が盛んに展開されつつあります。
もしパウエル議長が、自然利子率が上昇している可能性をジャクソンホールで示唆した場合には金融引き締めの長期化が考えられ、利下げ転換は市場が想定しているよりはるかに先になるといったタカ派的メッセージにつながりそうで当然債券金利は上昇、株価は下落し為替ではドル円がさらに買い進まれるリスクが高まることになります。

現状では2023年第1四半期時点では0.5%と考えられているので、この自然利子率0.5%に長期的に想定されるインフレ率2%を足した2.5%が中立金利ということになります。
しかし上述のようにパウエル議長が自然利子率が上昇している可能性を明確に示した場合、今年残り0.25%の利上げで打ち止めと見られているFRBの金利引き上げ政策は今後長期金利を中心にさらに引き上げられることになると市場は理解することになるため、なにも起こらないはずのジャクソンホールを経て相場は大荒れになるリスクがあることは予め理解しておきたいところです。

市場は米国のインフレ早期沈静化で利下げ、株上げを期待するがまだ気が早い

6月の米国月次CPIは前年同月比3.0%の上昇に留まったことから、市場では利上げはすでに終了したといった楽観論が飛び交うこととなりました。
ただ実際にはFRBは1回の経済発表の結果だけで金融政策を判断することはなく、7月分に続き8月分も予想を下回る低い伸びが続くならば政策を変更する可能性は高まりますが、昨年のこの時期は9%以上というかなり高い水準でインフレが進んだだけに今年の数字が低く出てくるのは当たり前で、インフレがこのまま高止まりししかも自然利子率が実は上昇して中立金利2.5%が実はさらに高いところにあることが判明した場合、次回の9月かその次の10月31~11月1日の会合で0.25%の追加利上げに踏み切る可能性が残されていることは予め正確に意識しておきたいところです。
ここ数か月のように昨年におけるインフレ率の発射台が極めて高く、それに比べると今年の月次の数字が低く出ているのはいわゆるベース効果と呼ばれるもので、伸びが見かけ上低くなっただけで現実のインフレ率はここからさらに反転上昇する可能性があることも考えておかなくてはなりません。

長年FRBの政策に全面的に依存しきってきた市場はなにかあればFRBがなんとかしてくれるという楽観的期待を高める傾向にありますが、一度上昇したインフレは金利をいじっただけではすぐに効果が現れる訳ではなく、FRBが描くインフレターゲットに近づくためにはまだまだ時間がかかることを理解しておく必要がありそうです。
こうなると為替市場で一番気になるのはドル円が昨年のように過熱感をもって上昇するのではなく、日々50銭程度の推移でじり高状態から150円に到達してしまうことで、さすがに財務省もスムージングを口実に介入ができなくなった場合果たしてどう対応してくるのかが気になるところです。
YCCの運用変更をさらに現実化して1%に近いところまで10年債利回りが上昇するのを許容すれば円安は解消することになりますが、緩和という言葉を一切外すことができずそれが出来ないところに日銀と財務省の為替政策に大きな矛盾が潜んでいる状況です。
ジャクソンホール会合には植田総裁も当然参加しますが、そのあたりに全く言及できないのは植田日銀の弱さであり、ジャクソンホールをもってドル高が解消する可能性はかなり低くなりそうです。