日銀は10月末の政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)については再度柔軟化するものの、金融緩和とマイナス金利は継続することを決定しました。
この結果を受け中央銀行の政策に詳しい海外のアナリストたちからは、多くの疑問の声が上がっています。
これこそが「ジャパニーズリラ」と揶揄される原因となっている訳ですが、このような特殊な政策を行う日銀の背景には、どうやら深い理由がありそうです。
リンボーダンスのバーを何度も引き上げればやがて意味を持たなくなると見る海外勢
10年債の利回りが今年に入ってから0.5%を超え始めたことから、日銀は7月末に行われた政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)を1%まで許容することを決定しました。
この時すでに海外のアナリストたちは、近い将来にイールドカーブ・コントロールは撤廃され、マイナス金利の終了と利下げが実施されるであろうことを想定していました。
しかしそれから3か月が経過した先日の政策決定会合でも、事実上1%を越える金利上昇を容認する形となったため、アナリストたちは年明けの早い段階で日銀がYCCを終了させるであろうと改めて予想している状況です。
リンボーダンスで言えば、バーをくぐることができなくなったため何度もその水準を引き上げている訳ですから、やがてこのバーの設定は意味を持たなくなるのではないかと海外勢が予想するようになるのはある意味当たり前のことです。
日銀は、このバーを引き上げてもここ10年近く続けてきた金融操作をやめるつもりはないことが窺えるため、言うなればリンボーダンスのバーが邪魔だから引き抜いてしまおうというのが足元の状況となっています。
債務国では国債の買い支えを維持することは大きなメリット
本来日銀の大きな役割はインフレが示現し始めたときに金融政策、つまり利上げを実施しそれを制御することであり、米国のFRBもこの役割を果たすために経済への影響を考慮しながら利上げを続けています。
しかしすでにGDPの257%以上もの国債を発行している日本のような債務国にとって、インフレは国の実質債務を解消するために有効に働くものの、同時に金利を上昇させると国債費の利払いに大きな負担が生じるため決して望ましい状況ではないとの考えがあり、ここに市場の見立てと日銀の真意に大きなズレがあることがわかります。
YCCは再修正するものの金利の上昇局面では国債買入オペを一切やめないという姿勢からもわかるように、日銀はインフレが顕在化しつつあっても、国債を自ら買入れることで長期金利の上昇を制御することができる装置を維持することが、借金と利払いの負担軽減になると考えているようです。
しかし、このような政策を続けようとしているのは、この世界中どこを見ても日本だけであるため、市場の予測とは大きく乖離し、海外の著名アナリストたちも理解に苦しんでいるのが現状です。
インフレが実際に到来してもそれを無視して低金利政策を維持する姿勢は、前年比70%というインフレ下でも利下げをしたトルコの中銀を彷彿とさせる状況で、今後もそれを持続することができるのかに市場の注目が集まっています。
来年半ばまでマイナス金利解除の可能性低く、米国の意向にも合致
欧米系のメディアではこうした難解な日銀の政策姿勢を正確に理解することができず、年明け早々にマイナス金利を解除するのではないかといった観測記事も出始めています。
しかし当の日銀は、2%の持続的で安定的な物価上昇の実現がはっきりと視界に捉えられる状況にあると考えており、来年の1~3月ごろには見極められる可能性があると悠長な見通しを繰り返しています。
現実になんらかの政策変更を打ち出すとしても来年6月以前になる可能性は低そうで、そうなれば大統領選挙までとにかく緩和を続けてほしいと願う米国の意向にも合致することになります。
こうした日銀政策が本当に正しいのかという問題はありますが、日米の政策内容の差を見ると、ドル円が来年前半にかけて大きく下落するとは考えにくい状況です。
足元の相場状況を理解するのは非常に難しいことですが、誤った判断を行わないよう日銀の政策維持にはこのような真意があるということはしっかり認識しておきたいところです。