先日このコラムで、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターの創始者、レイ・ダリオ氏が、世界はすでに戦争のフェーズに突入しているという見解を示しているという話を紹介しました。

>>この先10年以内に第三次世界大戦勃発の確率50%という不気味な数字

しかし足元では、ハマスとイスラエルの衝突に起因する地政学リスクを金融市場は殆ど織り込んでいない状況となっています。

戦火は拡大せず、地政学リスクは高まらずに推移

今回の衝突で地政学リスクが高まらずに推移しているのには、いくつかの理由が存在するようです。

最も大きな理由としては、過去4回にわたる中東戦争とは異なり、周辺の中東諸国が積極的に戦争に関与するような動きを見せておらず、ガザ地区でもハマスとイスラエル軍の局地戦にとどまっているという現状が挙げられます。

WTI原油価格についても、武力衝突が始まった当初こそは急騰する局面があったものの、その後の原油供給には大きな影響が出ておらず下落基調で推移しており、市場には楽観ムードが漂っていることが窺えます。

 

過去半年のWTI原油の価格推移

 

本来、中東情勢が緊迫化すれば、エネルギー価格は高騰しインフレ再燃となるため、利下げどころの騒ぎではないはずなのですが、足元ではFRBがいつ利上げを終了させるのか、またどのタイミングで利下げを行うのかだけに注目が集まっている状況です。

イランは戦争ではなく石油供給戦略で対抗か

中東情勢が緊迫化すれば、懸念されるのは周辺の中東諸国による地上戦への介入ですが、イランとしては実際の攻撃よりも石油の精製と供給を停止することで、G7をはじめとする西側諸国へ他激を与えることを目的としているようです。

その準備は着々と進んでいると言われており、まずはホルムズ海峡を封鎖することにより、アジア諸国への物理的な原油供給を断つことが予想されます。

原油精製と供給を止めることは、アラブの産油国にとって大きな痛手となるため、これまでなかなか足並みが揃いませんでしたが、足元でイランはインドのムンバイとロシアのモスクワを鉄道、道路、海路で結ぶ輸送回廊の実現に力を入れています。

 

 

南北輸送回廊(通称INSTC)と呼ばれるこのルートはすでに大部分が開通しており、完成すれば米欧からの干渉を一切受けることなくエネルギーと物資の輸送、輸出が可能になります。

中東からは原油を、ロシアからは穀物を安定的に輸出することができるようになれば、欧米に対しエネルギーと物資の輸出を盾にとった反撃に出ることもできます。

この点は、過去の中東戦争とは大きく異なる点であり、さらにこのルートにはインドや中国も供給ルートとして加わるため、ワークが始まれば西側諸国に深刻な打撃を与えかねません。

実のところイランとサウジアラビアは依然として反目している部分もあり、BRICSで言えば中国とインドは決して親密な関係とは言えないものの、反米という利害の一致から連携強化を図れば大きな力を発揮することは間違いありません。

北半球が冬になるこれからが石油供給停止のベストタイミングか

イランをはじめとする中東の産油国は、北半球が冬に突入するこれからが、石油供給停止の効果を最大限に発揮するベストタイミングであることを理解しています。

そのため、パレスチナ支援の産油国がここから何らかの行動に打って出る可能性が非常に高くなっています。

米ネオコンからはウクライナを捨てイスラエルに集中すべきとの声も

イエレン財務長官は先ごろの会見で、米国はウクライナとイスラエルの戦争を見据えたニ正面作戦を実現するに足る資金を持ち合わせているとの発言を行っていますが、すでに他国の戦争に加担できるほどの支出に耐えられる国ではなくなっているのが現状です。

それを知ってか知らずか米国のネオコンたちは、すでに投資妙味のなくなったウクライナからは手を引き、イスラエルの戦争に集中すべきという声も上がっている状況です。

この手の話は陰謀論の域を出ませんが、金融市場がリスクの織り込み不足であることは間違いないため、何らかの影響が出ることはしっかりと認識しておく必要があります。

突如、市場に影響が示現しても慌てることのないよう、準備はしっかりとしておきたいところです。