以前このコラムにて、12月の日銀政策決定会合での利上げはなく現状維持の見通しであることをご説明しましたが、植田日銀総裁は今月7日の国会答弁で「チャレンジング」という言葉を使い、その後岸田首相と会談が報じられたことから、12月の日銀政策決定会合で利上げが実施されるのではないかとの憶測が広まっています。

7日の午後3時には、30年物の日本国債(JGB)が不調に終わり金利が上昇し始めたことをきっかけにドル円は大きく売られる展開になりました。

昨年12月には、黒田前総裁が岸田首相と会談を行った直後の日銀会合において、イールドカーブ・コントロール(YCC)の上限引き上げという政策変更を行っているだけに、今回の植田発言とその後の会談実施は市場を大きく揺さぶる材料となりました。

植田総裁は今回の会談で為替のことはテーマに挙げられなかったとしていますが、岸田政権にとって輸入物価の高騰は、重要な問題であることに間違いありません。

 

同日のニューヨークタイムで一旦下げ止まったかのように見えたドル円でしたが、翌8日の午前2時47分あたりには、200日移動平均線が位置していた142.200をあっさり下抜け、瞬間的に141.580円まで下落することとなりました。

日銀をよく知る指揮者やアナリストたちは、この12月から来年2月までに0.1%の利上げを行う可能性は極めて低いと声を揃えて予測していますが、市場では依然多くの参加者が政策変更を予測しているのが現状です。

円キャリートレードが巻き戻されるようなことがあれば、年初の安値である127円前後どころかFRBの利上げが始まった2022年の115円あたりまで押し込まれる可能性もあります。

LTCMを破綻に追い込んだ1998年のロシア危機の際にも、円キャリートレードの巻き戻しからドル円は30円近く下落し、2008年には10月からの3か月間に20円も下落する場面がありました。

現状に当てはめると、何かの拍子に120円~115円の水準まで売込まれるリスクに差し掛かっているということになります。

 

過去5年のドル円の動き(2022年の米国利上げ開始が上昇の起点)

YCC撤廃も10年債利回り1.5%超は容認できない日銀

内部事情に詳しい元日銀出身のアナリストによれば、仮にイールドカーブ・コントロールを撤廃したとしても、発行済み国債の金利問題が横たわっており、日銀としては10年債の利率を1.5%以上に上げることはできない状況のようです。

来年の春闘後に判断することが裁量の選択肢と見ているようですが、海外の投機筋は、少なくとも来年1月ないし2月までには0.1%の利上げを実施し、7月以降にもさらに0.1%の利上げを行うという前のめりな予測を織り込み始めています。

もちろん日銀内で政策変更が支持されるのであれば、利上げが行われる可能性もゼロではありませんが、米欧では早ければ来年3月にも利下げに踏み切るとの観測が強まる中、日本だけが利上げに突き進むことができるのかという点には疑問が残ります。

仮に日銀がイールドカーブ・コントロールを廃止することになったとしても、金利上昇局面ではまた日本国債の買入れが始まることもある点には注意が必要です。

19日の政策決定会合で現状維持となった場合は失望感から円売り戻しも

感謝祭後に148.500円レベルまで値を戻したドル円は、瞬間的にせよ141.580円の水準まで下落しています。

5円もの下押しは財務省の円買い介入でさえもかなりの力技となりますが、日銀の政策変更期待だけでそれを超える下押しを実現しているだけに、19日の会合で現状維持に落ち着いた場合は、失望感からの円売り戻しが走る危険性も高くなります。

 

Data ZeroHedge

Data ZeroHedge

溜まり過ぎた円売りポジションは、どこかで反対売買を行い解消させる必要があるため、日銀の政策変更期待から円の買戻しが起これば、その巻き戻しも発生する可能性があることは意識しておく必要がありそうです。

とくに12月19日はクリスマス休暇の直前にあたるため、市場参加者はさらに減少し相場を動かすのはほとんどアルゴリズムだけという特異な状況となります。
急落に比べると急騰のスピードはある程度限られますが、5円程度の間き戻しは十分に想定できる範囲です。

クリスマス前にドル円が150円目前の水準になることもあり得るため、不測の事態も意識しながら取引していくことが大切です。