以前のコラムにおいて、昨年末に為替アナリストたちによって予測された今年末のドル円相場の水準は、ほぼ8割近くが大きく外す結果だったという内容をご紹介しました。

昨年の結果を振り返ると同時に、来年のこの時期におけるドル円相場の予測も行われており、本邦のみならず欧米における金融機関の見解が気になるところです。

ということで今年最後のコラムは、2024年末におけるドル円相場の水準について考えてみたいと思います。

海外の金融機関はドル円高止まりを想定し、日本の金融機関は円高を示唆

日経新聞にて掲載された「内外金融機関の円相場見通し(2024年末)」は、アナリスト個人の見解ではなく、金融機関によるドル円相場の見解が示されており、なかなか興味深いものになっています。

もし1年後の相場水準を的中させることができたとしても、トレンドを維持してその価格水準に到達するのか、それとも大きく上昇または下落した後に値を戻す形でその水準に到達するのかによっても、意味合いは大きく異なることになります。

 

Photo 日経新聞

 

この一覧を見ると、海外勢は比較的ドル高円安の継続をイメージしているようですが、日本の金融機関は日銀がいよいよマイナス金利を解除しじわじわと政策金利を上昇させることにより、円高が進むとの見解を示していることがわかります。

FRBが利下げに踏み切り、日銀が周回遅れながら緩和の巻き戻しに出ることになれば、円高が進むことは想像に難くありません。

しかし問題はどのレベルまで円高が進むのかということで、その見立ての違いが来年末におけるドル円相場がドル高になるのか円高に押し戻されるかの違いになっているようです。

FRBの利下げ議論は時期尚早、日銀はYCC撤廃も国債の買入れ必須か

市場では、FRBが公式に利上げ終了を発表していないにも関わらず、パウエル議長が利下げを示唆する発言を行ったことにより、利下げモードが進む状況になってきています。

FRB高官が示す金利見通しのドットチャートでは、年間3回0.75%の利下げが見込まれていますが、市場はさらに前のめりな利下げを織り込み始めており、利下げに消極的な各地区連銀の総裁からは時期尚早との声が上がっています。

これまで米国市場では景気後退感の強まりにより利下げを加速した場合、必ずと言っていいほど株を中心とした暴落が起きているため、過去の失敗を繰返さないためにも利下げの水準とそのタイミングはしっかりと議論していく必要がありそうです。

世界中でインフレが進む中、日本だけが唯一マイナス金利を堅持している状況にあるため、日銀は年明けの早い段階でマイナス金利だけでも終了させることが考えられますが、その後の利上げの話となると、様々な事情から簡単には進まない可能性があります。

仮にイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃したとしても、JGB10年債が恒常的に1.5%を越えるのであれば、結局は国債の買入れを余儀なくされるのではないかとの見通しも出始めています。

 

Photo Fed

 

日本と米国、二つの中央銀行が今後どのような政策変更を行うのか、またそのタイミングにより、日米の金利差は異なるものになります。

意外にも円高が進まない可能性もある一方で、各国が利下げに踏み切る中、日銀が周回遅れで利上げを行えば、円キャリートレードの強烈な巻き戻しから20円、30円規模の激しい下落が起こる可能性も十分にあります。

さらに相場の先行きにはECBも複雑に関わってくるため、正確に予想するのは至難の技となります。

どこかで相場の暴落が起これば、ドル円のみならずドルストレートも間違いなく大幅に下落することになり、平常時の相場予想は全くワークしない可能性が高まります。

円キャリーの巻き戻しが入ればドル円は110円以下に走る可能性も

市場ではここのところ、過去10年の緩和により円キャリートレードの金額が想像以上に膨らんでおり、この巻き戻しによる急激なドル安円高の進行が危惧されています。

円キャリートレードと言うと、日本国内で調達した円をドル転、ユーロ転し、投資に利用するというイメージがありますが、日本在住の個人投資家や日本企業が保有している円をもとに海外で投資を行うことも、広い意味での円キャリートレードに当たります。

米国の一部メディアでは、その額はすでに20兆ドル(日本円にして2,800兆円)規模に達しているとの報道もあり、何かをきっかけに円売りの巻き戻しが加速すれば、相場が大暴落する可能性は非常に高くなります。

為替の先行きは非常に予測しづらい今日この頃ですが、わからないという条件は誰にも平等であるため、リスクもチャンスも公平に訪れることになります。

来年も予測の難しい相場展開になることが予想されますが、その都度臨機応変に対応できるよう準備を整え相場に向き合うことが重要になりそうです。