金融市場は、イスラエル軍がイスラム組織ハマスに対し、いよいよ陸海空からの攻撃を開始する模様を固唾を飲んで見守る状況となっています。
嵐の前の静けさなのか、株は一定の上下動があるものの為替は完全に膠着状態に陥っています。
今後双方の衝突が本格化した場合、金融市場で最も気にすべきことは周辺の中東諸国とイランがどのように介入してくるかという点です。
戦争開始のリスクオフによるドル買い、米債買いは限定的か
10月7日に発生したハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃により、週明けはリスクオフによるドル買い、米国債買いが目立つ相場となりました。
ただその後はドル円も米国債も青天井とまでは行かなかったため、今回の衝突を受けて再度リスクオフムードが高まったとしてもいつまでドル買い、米国債買いが続くのかがポイントになりそうです。
リスクオフの動きは、90年代に発生した湾岸戦争時だけでなく、米10年国債利回りが2日間で25ベーシスポイント低下した去年2月のウクライナ侵攻時からも見て取ることができます。
初動での米債への資金逃避は、過去10年間における1日平均の6倍の値動きであったと言われており、米債購入は安全な逃げ場として定着していることがわかります。
ロシアによるウクライナ侵攻当日も、米ドルは主要通貨に対して1%近く値上がりしていることから、アルゴリズムを含む初動でのリスクオフの動きは、すでに市場でプログラム化されていることも窺える状況です。
中東諸国とイランが石油を盾にどう仕掛けてくるかが最大の問題
足元では、サウジアラビアがパレスチナ支持を表明しているものの地上戦に参入するような意思は見せておらず、ハマスの裏にいると言われているイランも外相が直接戦争には関与しないと明言しています。
ただイスラエルが本格的なパレスチナ人の掃討作戦を開始し、大量の死傷者が出るような事態になれば、イランおよびアラブ諸国はイスラエルとその背後にいる米国に対し、軍事のみならず経済行動も辞さない構えであることが予想されます。
金融市場に至っては、原油輸出を盾にとった反撃策が最も大きな痛手となります。
2024年1月より、アルゼンチン、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が新たにBRICSへ加盟することが決定していますが、これにより世界の原油生産国8カ国のうち5カ国がBRICS入りを果たすことになります。
つまり、原油生産の実に80%がBRICSのコントロール下に置かれることになりますが、イランは現在置かれているイスラエルの実状を、かなり前から察知していたのではないかと疑わざるを得ない状況です。
イランとサウジアラビアは中国の仲介で国交を回復しているため、新生BRICSのスタートを前に緊密にコンタクトをとり、すでに中東の連帯を実現していることが窺えます。
イスラエルがパレスチナに総攻撃を仕掛ければ、BRICS加盟国はオイルショック時のような原油の価格引き上げや輸出制限などを実施してくる可能性が高まり、もしイランが湾岸戦争の時のようにホルムズ海峡の封鎖に踏み切れば、物理的に西側諸国への原油輸送をシャットダウンすることにもなりかねません。
第五次中東戦争へと発展した場合、どれだけのアラブ諸国が地上戦に参加するかが大きな問題となり、反イスラエル、反アメリカでイランと連携した経済行動に出ることが懸念されます。
用意周到なイラン、ロシアとの密接な関係づくりもぬかりなく
イランはBRICSへの加盟申請以前からロシアとの関係を重要視しており、最近ではインドのムンバイとロシアのモスクワを鉄道、道路、海路で結ぶ南北輸送回廊(INSTC)の実現に力を入れています。
インド、イラン、アゼルバイジャン、ロシアを結ぶ全長7200kmの輸送回廊が完成すれば、周辺の海路を利用せず貨物を輸送することができるため、30%のコスト削減と40%の輸送時間短縮が実現すると見られています。
ウクライナ戦争で西側諸国と対立するロシアにとって、米欧の干渉を一切受けない内陸ルートを確保できることは大きなメリットであり、今後第五次中東戦争が勃発することになっても、ロシアとイランのエネルギー輸出には何の影響も及びません。
これはインドや遠方の中国にとっても大きなメリットとなりますが、日本や米国経済にとっては1973年に起きたオイルショック以上に深刻なダメージを受けることになります。
WTIを始めとする原油価格の暴騰が起きれば、米株は暴落し米債金利も現状水準からさらに上昇することとなり、米国も日本もインフレを制御できない状況に陥る可能性があります。
ハマスとイスラエルの対立がイランと米国の戦争状態を意味すると解釈すれば、イランが単独で米国に勝利するとは考えにくい状況ですが、現在の中東はBRICSプラスのスタートを軸に、反米、反イスラエルの結束を高めており、石油ひとつとっても西側諸国の経済に壊滅的な打撃を与えかねません。
第四次中東戦争から50年を経てもなお、中東諸国が石油供給阻止を仕掛けるのは進歩のない話ですが、中東の連携強化が大きな武器になり得ることは間違いない状況です。