5月22日、日本市場では11年ぶりに長期金利が1%の大台に達しました。

日本銀行による早期の追加利上げや国債買い入れの減額が警戒される中、この日行われた40年利付国債入札が弱めの結果となり、債券売りが膨らむこととなりました。

国内の長期金利の1%という水準は、日銀が今年3月にマイナス金利を解除し、イールドカーブコントロールを撤廃することになるまで上限の目処としていた水準であり、この水準へ到達したということは、13年から10年以上続いた異次元緩和が完全に終焉したことを意味しています。

債券市場では金利上昇がかなり意識されていますが、為替市場での反応は薄く、各資本市場での反応もまちまちとなっています。

 

イタリアのG7財務相・中央銀行総裁会議に出席した植田総裁は、11年ぶりに長期金利が1%台に上昇したことについて「長期金利は金融市場で形成されることが基本になる」と述べています。

植田総裁は、大規模緩和の修正に踏み切った今年3月の金融政策決定会合で、国債買い入れは「これまでとおおむね同程度の金額で継続する」としてきました。

しかし今回の発言は、長期金利の上昇を容認するかのような内容であるため、今後の国債買い入れ額にも影響が及ぶのかどうかに注目が集まっています。

ただ今月23日に実施された国債の買入れオペの金額は、1~3年債は3750億円、3~5年債が4250億円、5~10年債が4250億円と減額されずに実行されているため、次回の会合への関心も高まっている状況です。

財務省が積極的に円安対策を実施する一方で、債券の大規模な買い入れもやめないという方針は、海外投資家にとって理解し難いものです。

植田総裁が市場に対し丁寧な説明を行っても、投資家たちはその意図が分からず困っている状況と言えます。

市場からの信認低下が懸念される植田総裁

植田総裁の就任から既に1年以上が経過しました。

就任当初は前任者の政策を継承し様子見の姿勢を続けていましたが、今年3月にはマイナス金利の解除やイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃など、新たな金融政策の方向性を打ち出しました。

しかし足元では、日本銀行が円安に対する警戒心が弱いとの見方が急速に広まり、ドル円は160円まで円安が進行したため、市場では植田総裁の発言が円安をより加速させているのではないかとの見方も強まっています。

既に円買い介入は始まっていますが、円安を阻止する策を講じる一方で国債の買入れも継続するという完全に相反するやり方には、多くの海外投機筋が首を傾げる状況です。

6月の会合で利上げを実施することができるのか

債券市場では、6月の日銀政策決定会合で利上げが前倒しで行われると予想する海外勢が増えています。

実際に0.25%の利上げを実施するとなれば、日本政府と財務省による綿密な擦り合わせが必要となることは言うまでもありませんが、これまで低く抑えられてきた国債費が利上げにより突然跳ね上がることを財務省が了承するかどうかが最重要ポイントとなりそうです。

一方で日銀自身も既発債の6割を抱えているため、利上げを実施すれば含み損が大きく膨らみ、帳簿上には現れなくとも、債務超過が現実味を帯びることになります。

満期まで保有していれば、含み損は解消しますが、この状態を評価するのは金融市場である以上リスクは急激に高まります。

また、為替介入以上に利上げを嫌う米国政府の動向も注目されるところで、イエレン財務長官との調整が高いハードルとなることは間違いありません。

 

こうした複雑な要件を考慮すると、海外の投機筋は利上げ実現の可能性を非常に低く見積もっていることは明らかです。

そして日銀と財務省がタッグを組んで円安を阻止するとなれば、有効手段として残されるのはやはり為替介入ということになります。

何より植田総裁と市場の対話は全くうまくいっていないのが実状で、重要な政策変更事項をメディアリークで市場に拡散するという手法にも問題がありそうです。

本来なら日銀幹部らが修正をかけていくべきものですが、それすら行わないのには違和感を覚えざるを得ない状況です。